ITリーダーは、ビジネスの視点でIT基盤を俯瞰せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(4)(2/3 ページ)

» 2011年09月12日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

なぜパブリッククラウドよりプライベートクラウドなのか?

三木 さらに広い視野で、将来あるべきITインフラの姿を考えた場合、ガートナーさんでは「クラウドへの移行を目指すべきだ」と提唱されています。そこで、ガートナーさんがよく引き合いに出される例に、米国で各企業のCIOを対象に実施したアンケート調査があります。いわく、「将来的にはパブリッククラウドより、プライベートクラウドへの投資を増やしていく」との回答が多かったとのことですが、なぜパブリックよりプライベートなのでしょうか?

「BCPには、IT部門も率先して取り組みたい。リスクのシナリオごとに、既存のバックアップ/リストアの仕組みが、どのように作動して、どの程度アプリケーションと業務が守られるのか。きちんと整理して共有しておくべきだ。ITシステムが止まったら経営にどれだけのインパクトが生じるのか。今、真剣に考える必要がある」――鈴木雅喜

鈴木氏 パブリッククラウドの活用は、今どの企業でも前向きに検討されていますが、一方でさまざまなリスクがあることも事実です。例えば「セキュリティは大丈夫なのか」「サービスは継続的に提供されるのか」「サービスを乗り換える際のデータ移行にどれぐらいのコストが掛かるのか」といったものです。

 そうしたリスクを回避しつつクラウドのメリットを享受する目的で、自社のITインフラのクラウド化を進める企業が増えてきています。日本でも先進的な企業では、すでにプライベートクラウドへの取り組みが始まっています。しかし、すべてがプライベートクラウドになるというわけではありません。従来型のシステムも残りますし、パブリッククラウドの利用が適している領域もあります。用途に応じて、これらをうまく使い分けていくことが重要です。

三木 パブリッククラウドにはコスト面やスケーラビリティの面でさまざまなメリットがありますが、どうしてもアプリケーション単位での導入にならざるを得ないのがデメリットだと思います。例えば「CRMをクラウドで」「Eコマースをクラウドで」といった具合です。これでは、社内のITインフラ全体を戦略的に見直したい企業にとっては、部分的な解にしかなりません。かといって、ITインフラ全体をパブリッククラウドに移行するというのは、現実的ではありません。となると、自社で保有しているITインフラをどのように改善していくのか、すなわちプライベートクラウドのような考え方は、どうしても避けて通ることができませんね。

鈴木氏 そうですね。確かにアプリケーションやシステムごとに個別の要件やサービスレベルを考えていくことは重要ですが、それを部分的に行うのではなく、自社システム全体を俯瞰した上で総合的に判断していく必要があります。でないと、いくらクラウド化したといっても、結局は従来のようなサイロ型システムと何ら変わらないことになってしまいます。しかしこの部分に関しては、まだ確固たる方法論やフレームワークがありません。従って、各企業ともそれぞれの事情に合わせて独自に取り組みを進めているのが現状です。

三木 一方で、「プライベートクラウドとはベンダが仮想化関連の製品を売り込むために作り上げたバズワードだ」と言う人も少なくありません。あらためて、プライベートクラウドとはいったい何だとお考えでしょうか?

「パブリッククラウドにはコスト面やスケーラビリティの面でさまざまなメリットがあるが、どうしてもアプリケーション単位での導入にならざるを得ない。では、自社で保有するITインフラをどのように改善していくのか? やはりプライベートクラウドのような考え方を避けて通ることはできない」――三木泉

鈴木氏 一言で言えば、「将来ITシステムがあるべき姿の1つ」だということです。プライベートクラウドという呼び方に対する好き嫌いは当然あるかと思いますが、重要なのはその言葉の背後にあるコンセプトです。すなわち、これからのITシステムには、柔軟性や俊敏性、拡張性がより強く求められるということです。

 実は、クラウドコンピューティングという用語が登場する前から、こういった考え方自体はありました。ユーティリティコンピューティングや、オンデマンドシステムなどはその一例だと言えるでしょう。プライベートクラウドも、本質的なコンセプトはこれらと何ら変わりはないと私は考えています。ただこれまでと比べ、より具体的な姿で現実解が見えるようになった、というのが今の状況だということです。

 ただし、現在ある技術だけで十分だというわけでもありません。システムをエンドトゥエンドでうまく管理できるか? ポリシーに沿って本当に動的にシステムの構成を変えられるか?――現在の技術では、まだノーですね。従って、今後も慎重に動向をウォッチしていきながら、進むべき方向を見誤らないようにしなければいけません。

三木 プライベートクラウドの実現を目指すためには、まず具体的に何をやるべきだとお考えでしょうか?

鈴木氏 ITインフラの観点から言うと、まずは仮想化を進めることです。それによって、インフラの柔軟性が格段に上がります。ただ、気を付けなければいけないのは、仮想化とはサーバの仮想化だけを指すものではなく、ストレージやネットワークも含めたものだという点です。

 サーバとストレージ、ネットワークを全体的に仮想化するプロジェクトを進め、サービス化し、効率性の向上を考えていった先にプライベートクラウドがあります。中でも、ストレージは肝になります。ストレージが変わると、全体のシステム構成はまったく変わってきます。従って、ストレージに対する注力をより高めていかないと、ITインフラ全体の仮想化はうまくいかないと思います。

三木 一方で、全社的なITインフラ改革には、人的な要素も多く絡んできます。部門横断型のプロジェクトになりますから、各部門の担当者や社外のSIerやベンダなど、さまざまなステークホルダーが絡んできて、調整が非常に困難になってきます。

「仮想化のプロジェクトを進め、効率性の向上を考えていった先にプライベートクラウドがある。中でもストレージは肝だ。ストレージに対する注力をより高めていかないと、ITインフラ全体の仮想化はうまくいかない」――鈴木雅喜

鈴木氏 そうですね。この課題は今に始まったことではなく、サイロ型システムを止めましょうという話が出てきたころからずっと言われてきたことです。

 ただやはり、システムを全社的に統合した場合と、組織ごとにバラバラに運用している場合を比べた場合、果たしてどちらが効率的なのかということを、経営の視点から冷静に見て、経営判断として断行する必要があると思います。決して簡単なことではありませんが、これをやらなければ、社内の調整に手間取っているうちに競合他社に置き去りにされてしまいます。

 特にこれからは、多くの日本企業がグローバル市場で海外企業と戦っていかなければいけません。そんな中、経営インフラが統合されていない状態で、果たして勝ち残っていけるのか。これは、日本企業が真剣に考えるべきテーマだと思います。

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