三木 これまでIT部門は、ユーザー部門から見ると、「何か頼むたびに、すぐ『時間がかかる』『人手が足りない』と言って、なかなか協力してくれない」といったように、あまり良いイメージで見られていなかった面があったかと思います。その点、プライベートクラウドのような取り組みは、IT部門に対するネガティブなイメージを払しょくできるチャンスでもあるのではないでしょうか?
鈴木氏 まさにその通りだと思います。むしろこういったケースは、ユーザー部門がITに大きな期待を掛けているからこそ生まれてくると思います。私が見たところでは、日本ではユーザー部門がITがどう生かせるのか分からず、初めから期待していないケースが非常に多いように思います。こちらの方が、状況としてははるかに深刻です。
これを打破するための1つのキーワードが、昨今よく言われる「ビッグデータ」だと思います。「今見えているデータ以外にも、価値の高いデータがさまざまな場所に眠っているのではないか。それらを既存の枠組みを超えて活用していこう」という考え方が、ビッグデータを理解する上で重要です。まだITのニーズが生まれていない企業の場合は、ビッグデータというキーワードの下、今までのITの枠組みや常識を取り払った新たな一歩を踏み出せる可能性があるのです。
そう考えた場合、クラウドコンピューティングとビッグデータはうまく結び付くと考えています。クラウドも、既存のITインフラの枠組みを効率化するだけのものではなく、その枠組みを超えて、より高い柔軟性や拡張性を活用する新しいITを目指さないとメリットを十分に生かすことができないわけですから。
三木 なるほど。IT部門がビジネスに貢献するためには、ビッグデータへの取り組みが1つの鍵を握るということですね。しかし一方では「IT部門に業務のことが分かるわけがない」「IT部門が業務に踏み込めるわけがない」と考える人も少なからずいるようです。
鈴木氏 本当にIT部門は、業務に踏み込めないのでしょうか? IT部門はより積極的に業務部門の人たちと話をしていかないと、「じゃあ、ITは全部サービスでまかなってしまえ」となり、将来的にIT部門の役割はなくなってしまいます。やはり社内のIT部門の強みは、社外の人間よりも自社の業務の内容をよく理解していて、「業務に最適なITは何か」を提案できる点にあります。ですから、業務側の人たちと手を組んで、信頼感を築き上げて、チームとして一緒に動いていかなくてはいけません。本来、チームワークやすり合わせといったやり方は、日本企業が得意とするところです。ですから、もう一度原点に戻れば絶対にできるはずです。
特に若い人たちは、どんどん率先して業務に飛び込んでいってほしいですね。若い人はどうしても、テクノロジに重きを置く傾向がありますが、これからは業務の人たちと積極的にコミュニケーションを図って、ITを分かりやすい言葉で伝え、理解を促し、ビジネスに貢献するという役割が、今まで以上に重要性を増していきます。ぜひそういった考えの下、社内にある壁を1つ1つ乗り越えていってほしいと思います。
三木 企業におけるITの役割も、大きく変わりつつありますからね。従来であれば、どちらかというと定型業務の効率化がITの主たる役割だと見られてきましたが、近年では「売り上げ向上のために、積極的にITを活用しよう」という動きが活発化しています。また、それを可能にするテクノロジも次々と現れています。これからは、この点に目を付けられるか否かで、企業の成長度合いに大きく差が出てくるのではないかと思います。
鈴木氏 その通りだと思います。既存のシステムの面倒を見ることだけを来る日も来る日も続けていると、いつの間にかそのことだけが目的化してしまって、視野が狭くなってしまうんですね。そこで、そうした枠組みを思い切って取り払って、もっと視野を広げれば、IT部門ができることはもっとたくさんあるはずです。
例えば先ほどのビッグデータの話で言えば、自社のビジネスに関わるデータは社外のものも含めて、どんなものが存在し、どんな生かし方ができるかということを、アプリケーション担当者だけでなく、インフラの担当者も考えていくべきです。さらに言えば、業務の人たちにももっと考えてもらうよう、促していくべきでしょう。このように、新しいテクノロジーの導入と、新しいデータを見いだすという取り組みを同時に進めることで、「これまでできなかったことをやってやろう!」という空気が醸成されていくのではないでしょうか。
企画:@IT情報マネジメント編集部
構成:吉村哲樹
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