ソーシャルメディアの浸透に伴い、これを企業内のコラボレーションツールとして活用しようという動きが広がっている。しかし、期待した成果を得るためには、「ビジネスにおけるソーシャルメディアの利用価値」をきちんと考えておく必要がある。
mixiやTwitter、Facebookなど、ソーシャルメディアの急速な浸透に伴い、これを企業内のコラボレーションツールとして活用しようという動きが広がっている。企業内での利用を目的とした社内ブログや社内SNSなどの製品も数多く提供されており、実際にこれらを導入・活用している企業も増えつつある。
しかし、必ずしも期待した通りの成果が挙がっていないケースも少なくないようだ。むろん、これらを自社の目的に合わせて適切に使えば有益な結果を得られるはずなのだが、そのためには「ビジネスにおけるソーシャルメディアの利用価値は、そもそもどこにあるのか」をきちんと考えておく必要があるのではないだろうか。
今回は、ガートナー ジャパンでソーシャルメディアのビジネス活用に関するリサーチや提言を行っている、同社 リサーチ部門 インフォメーション・コラボレーション リサーチディレクター 志賀嘉津士氏に、@IT担当編集長の三木泉が話を聞いた。
三木 志賀さんは長く、ITを活用した企業内コミュニケーション/コラボレーションに関するリサーチを続けてこられましたが、最近はソーシャルメディアにも注目されていらっしゃいますね。ソーシャルメディアというと、多くの方にとってはTwitterやFacebookなど、一般コンシューマ向けのサービスという印象が強いかと思いますが、企業にとってはどのようなインパクトをもたらすものとお考えですか?
志賀氏 そうですね。社外とのコミュニケーションについて言えば、特にBtoCの企業にとっては顧客エンゲージメントを醸成するスタイルが大きく変わってくると思います。従来の電子メールや電話、FAXを通じたコミュニケーションとは異なる、コミュニティ型の“多面的でコラボレーティブな対顧客コミュニケーション”が可能になります。
つまりこれまでのように、企業が顧客に対してプッシュ型かつ一方通行のメッセージを発信するのではなく、「顧客同士のコミュニケーションの中から企業にとって有益な情報が得られる」ような形に変わってくると思います。
これは顧客だけではなく、外部のパートナー企業とのコミュニケーションにおいても当てはまります。これまで企業同士のコミュニケーションは、一部の担当者が電話や電子メールを使って行ってきました。しかしそうした企業間コミュニケーションを、ソーシャルメディアのオープンな場で、ステークホルダーが全員集まって行うことで、より質の高い議論やアウトプットが生まれる可能性が開けてきます。
また、企業内コミュニケーションの在り方にも大きな影響を及ぼします。一言で言えば、「社内コミュニケーションの最適化」が可能になります。例えば、現在多くの企業では、社内コミュニケーションのほとんどを電子メールで行っていますが、多人数間でディスカッションをしたり意見を集約するような用途に、電子メールは向いていません。
また、何でも電子メールで済ませようとすれば、メールの数が膨大に増えてしまい、見落としや誤送信などの問題も出てきます。本来、ディカッションなどの用途には、それに適したツールを使えばいいはずです。まさにそこに、ソーシャルネットワークの大きな可能性があるわけです。
電子メールは本来、「私信」のためのツールですから、例えば社外との重要なやり取りなどの用途に絞って使われるべきでしょう。社内メールをソーシャルメディア型のツールに置き換えた結果、メールサーバのディスク容量が3分の1になったという事例も実際に出てきています。つまり、コミュニケーションを最適化すれば、同時にコストも最適化される効果も生まれるのです。
三木 なるほど。おっしゃることは総論としてはよく理解できますし、確かにその通りだと思います。しかし一方で、こうしたソーシャルメディアへの取り組みで、どれだけの企業が具体的な効果を出せるのか――つまり、「ソーシャルの取り組みを行えば、来期の売り上げが10%、20%伸びるのか?」と問われたとき、自信を持って答えられるものなのでしょうか?
志賀氏 やり方次第でしょう。最終的には、覚悟の問題だと思います。ソーシャルメディアに対して知識と理解があって、「きっと効果があるに違いない!」という強い信念を持ったリーダーが推進役になれば、導入は進むと思います。ソーシャルメディアの導入と活用は、受身ではだめなんですね。一方、そういう旗振り役のリーダーがいなくて、さほどソーシャルメディアに対して確信を持てない企業の場合は、他社の成功事例が出てきた時点で初めて検討を始めることになるでしょう。でも、それはそれで問題ないと思います。誰もがイノベーターにならなくてはいけないということではありません。
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