ITリーダーは、モバイルでイノベーションを創出せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(9)(1/3 ページ)

昨今、多くの企業がモバイルデバイスの業務利用に乗り出している。だが、そのメリットは業務効率化やワークスタイル変革だけではない。新たなビジネスモデル創出のトリガーとなる、実に多彩な可能性を秘めている。

» 2012年07月19日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ビジネスシーンにおけるモバイルの価値とは?

 スマートフォンやタブレット端末など、新世代のモバイル端末の急速な普及に伴い、ビジネスでもこれらを積極的に活用しようという動きが高まっている。だが、モバイル端末のビジネス活用には、従業員のワークスタイル変革や、モバイルワーク促進によるビジネス機会の創出など、さまざまな効果があるとされているものの、本当に収益拡大に貢献するものなのか、いま一つ確信が持てない人も多いのではないだろうか。

 そこで今回は、“モバイルのビジネス活用の真価”について、米ガートナー リサーチで企業のモバイル戦略について提言を行っている同社 バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト ニック・ジョーンズ氏に、@IT担当編集長の三木泉が話を聞いた。

モバイルが新たなビジネス価値を創出する

三木 企業ITにおいてモバイル戦略を考える場合、「顧客接点としての活用」「社員の生産性向上」という2つの切り口がありますが、まずは前者の観点からお話をおうかがいしたいと思います。近年、消費者の動向を探る上で、ソーシャルメディアの活用がクローズアップされていますが、モバイルはこれとどのような関連性を持つとお考えですか?

ニック・ジョーンズ氏
ガートナー リサーチ バイスプレジデント 兼 最上級アナリスト

ジョーンズ氏 ソーシャルメディアとモバイルのサービスは、多くの面でオーバーラップしています。例えば、Facebookやtwitterなどのソーシャルメディアに、モバイル端末からアクセスするのは極めて一般的になっています。

 しかしモバイルは、「消費者とのコミュニケーション」については、ソーシャルメディアよりも広い範囲をカバーできます。例を挙げると、最近個人的に気に入っているモバイルアプリの1つに、オーストラリアの自動車保険会社が作ったゲームアプリがあります。この会社の調査によると、同社に寄せられる事故の報告のうち、20%が駐車場内で起きているそうです。そこでこのアプリでは、駐車場の中でいかにクルマをうまく駐車できるかをゲームとして競うものになっているのです。

 このアプリには、3つの目的があります。1つはユーザーにゲーム形式で駐車スキルを磨いてもらって事故の件数を減らすこと。2つ目はマーケティングツールとしての役割です。ユーザーにゲームを繰り返しプレイしてもらうことで、自社ブランドを浸透させることができます。そして3つ目が販売促進ツールとしての目的で、ゲームをプレイしている最中に広告を繰り返し表示させています。これはほんの一例ですが、こうした形による消費者とのコミュニケーションは、モバイルが登場する以前は不可能でした。

三木 確かに、流通や小売りの分野では、ビジネスにモバイルを生かせるシーンは多いでしょうね。一方で、例えばソニーやトヨタといったメーカーの場合、どのような活用法が考えられるでしょう?

三木泉
アイティメディア @IT担当編集長

ジョーンズ氏 まず短期的には、流通・小売りと同様、マーケティング活動に有効活用できます。長期的に見た場合は、家電などの既存製品とモバイル技術を融合することで、大きなビジネスチャンスが生まれます。例えば、モバイル端末を使ってエアコンや洗濯機を遠隔操作したり、消費電力をチェックしたりといったことができるようになります。つまり、既存製品とモバイルを連携させることで、新たな価値を創造できるわけです。

 メーカーに限らず、ヘルスケア業界でもモバイルを取り入れることで、これまでにないサービスを生み出すことができます。例えば、自分の体重や血圧などの情報をモバイル端末を通じてポータルへ送信し、健康状態を管理してもらうようなサービスが考えられます。こうしたサービスが発展すれば、医療業界や製薬業界、モバイル事業者にも、新たなビジネス機会をもたらすことになるのではないでしょうか。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ