ITリーダーは、モバイルでイノベーションを創出せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(9)(2/3 ページ)

» 2012年07月19日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

アプリの販売だけがモバイルビジネスの収益モデルではない

三木 一方で、最近、モバイルアプリのビジネスがなかなかうまく立ち行かないという話をよく聞きます。その理由の1つとして、Android上のアプリ開発プラットフォームがまだ十分に整備されていないことがあるようですが、もう1つの理由として課金の問題が挙げられます。モバイルアプリは、かなり安価でなければユーザーに受け入れられません。このことは、アプリビジネスに新規参入しようというニューカマーには有利に働くかもしれませんが、大企業にとってはなかなか収益モデルを描きにくいという問題があります。

ジョーンズ氏 とても興味深い質問です。確かにモバイルの世界において、アプリのビジネスモデルは大きく変わりました。実際、300ドルするMicrosoft Officeのようなアプリケーションは、モバイルの世界では受け入れられにくいでしょうしね。しかし一方で「Angry Birds」(注1)のように、安価なモバイルアプリで大成功を収める企業も出てきています。つまり、こうした現象は「安価かつ大量」というビジネスモデルへの転換を示しています。そしてこうしたビジネスモデルは、確かに大企業では機能しにくいと言えるかもしれません。

▼注1:フィンランドのRovio社が2009年12月に発売したゲーム。iPhone版、iPad版、Palm版、Android版などが提供されている:フィンランドのRovio社が2009年12月に発売したゲーム。iPhone版、iPad版、Palm版、Android版などが提供されている

 しかし同時に、アプリの販売だけが収益を上げる手段ではないことに、多くの人たちが気付き始めています。例えば、英国のサッカークラブ「アーセナル」のモバイルアプリは、アプリ本体の販売だけではなく、アプリを通じてインタビュー動画などのアドオンコンテンツを販売することでも収益を上げています。つまり、持続的な収益を得るためのチャネルとして、アプリを活用しているわけです。この例のように、新しい収益モデルをどのように見い出していくかが、今後のモバイルビジネスのポイントになってくると思います。

「新しい収益モデルをどのように見い出していくかが、今後のモバイルビジネスのポイントになる。他のチャネルと連携させて、包括的なビジネス戦略を立てることも有効だ」――ニック・ジョーンズ

 また、必ずしもモバイル単体で収益を上げる必要はなく、モバイルは「あくまでも複数あるチャネルのうちの1つだ」と捉える考え方も必要でしょう。「売り上げを獲得するためのチャネル」ではなく、「マーケティングや付加価値を創造するためのチャネル」と位置付けた上で、他のチャネルと連携させて、包括的なビジネス戦略を立てることも有効だと思います。

三木 ということは、企業がモバイル戦略を考える場合、ビジネスモデル全体の大転換を迫られることもあり得るかもしれませんね。実は先日、米国の著名なメーカーのバーベキューグリルを購入したのですが、そのメーカーのサイトでは、バーベキュー料理の本をモバイル用の電子書籍コンテンツとして、わずか99セントで販売していました。この場合、このコンテンツの販売で得られる収益もさることながら、コンテンツを通じて他のバーベキュー商品やアウトドアグッズも訴求し、そちらも売れることを狙っているわけですね。

ジョーンズ氏 そうですね。今後、そのような“モバイルを活用した新たなユーザー体験”を企業はどんどん開拓していくことでしょうね。例えば、バーベキューの上に魚を置いてモバイル端末で写真を撮れば、自動的に「それがどういう種類の魚で、どのように調理すればいいか」を教えてくれるようなサービスも生まれるかもしれません。

「モバイルは“消費者のリアルタイムの行動と密に寄り添う”ことで、さまざまな価値を生み出せる。企業がモバイル戦略を考える場合、ビジネスモデル全体の大転換を迫られることもあり得る」――三木泉

 モバイルを活用することで、他の製品の価値を高めたり、新たなビジネス機会を得たりするチャンスは今後ますます広がっていくでしょう。現在はちょうど、こうした新たな潮流が始まったばかりの段階なのではないかと思います。

三木 つまりモバイルは、単にネット上のコンテンツにアクセスしてもらうだけではなく、“消費者のリアルタイムの行動と密に寄り添う”ことで、それ以上のさまざまな価値を生み出せるツールというわけですね。

ジョーンズ氏 その通りです。モバイルは位置情報の取得やカメラ、センサーなど、さまざまな機能を備えています。従って、既存のWebサイトを単にモバイル対応させるだけでは、モバイルが持つ価値を生かせているとは言えません。それでは、Webのインタフェースの制限にとらわれたままです。モバイルの世界では、この限界を打ち破らなければいけないのです。

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