
クラウドシステムという言葉はビジネスシーンで日常的に使われるようになりましたが、その本質的な仕組みや、自社にとって最適な導入形態を正確に把握できているでしょうか。かつてはセキュリティへの懸念から導入をためらう企業も少なくありませんでしたが、現在は政府が提唱する「クラウド・バイ・デフォルト原則」にもある通り、政府情報システムに限らず一般企業においてもITインフラ構築の第一選択肢となっています。
本記事では、クラウドシステムの定義から、SaaS、PaaS、IaaSなどのサービス形態、導入によって得られる具体的なビジネス成果、そして失敗しないベンダー選定のポイントまで、IT専門メディアの視点で詳しく解説します。
目次
この記事のポイント
クラウドとは、何のこと?: インターネット経由でコンピューティングリソースを「所有」せず「利用」する形態である現在主流のITサービスのことです。
3つのサービス形態: SaaS、PaaS、IaaSのそれぞれの特徴と、ユーザ側の管理範囲の違いを理解することが重要です。
導入のメリット: 初期費用の抑制、迅速なスモールスタート、災害時の可用性向上などが挙げられます。
選定の鍵: 自社システムとのAPI連携性や、ベンダーとの共有責任モデルを把握して選定を進めましょう。
クラウドシステムの基礎知識と定義
クラウドシステム(クラウドコンピューティング)とは、インターネットなどのネットワークを通じて、コンピュータのリソースをオンデマンドで利用する形態を指します。従来のように自社で物理的なサーバを購入・設置(オンプレミス)するのではなく、必要な時に、必要な分だけリソースを呼び出して利用するのが最大の特徴です。
インターネット経由で「所有から利用へ」転換する仕組み
クラウドが登場する前、企業が新しいシステムを導入するには、物理的なハードウェアの選定、調達、データセンターへの設置、そしてOSやソフトウェアのインストールといった膨大な工程が必要でした。これには数カ月から半年以上の期間を要することも珍しくありませんでした。
しかし、クラウドシステムでは「これらのリソースがサービスとして提供」されます。ユーザーはブラウザや専用のインタフェースを通じて、わずか数クリックで仮想的なサーバを起動したり、アプリケーションを利用したりできます。これは「IT資産を所有する」スタイルから、「サービスとして利用する」スタイルへのパラダイムシフトといえます。
総務省資料「令和4年 通信利用動向調査報告書(企業編)」によると、調査対象5965社のうちクラウドコンピューティングを「全社的に利用している」と回答した企業は全体の44.8%、「一部の事業所または部門で利用している」と回答した企業は27.3%。全体の7割以上の企業が、日常的にクラウド型サービスを利用しています。
仮想化技術が支えるクラウドの利便性
クラウドの根幹を支えているのは「仮想化」という技術です。1台の強力な物理サーバの中に、論理的に分割された「複数の仮想マシン」を用意することで、異なるユーザーがリソースを効率的に共有できるといったイメージで運用します。
この仕組みにより、他のユーザーの負荷に大きく左右されず、あたかも自社専用のコンピュータ環境があるかのように振る舞うことが可能です。また、仮にハードウェアの故障が発生したとしても、「仮想マシン」単位のデータを別の物理サーバへ即座に移動させることで、システムを止めることなく稼働し続ける「可用性」が担保されています。
(基礎知識)クラウドで何が変わるのか
クラウドとは何か──から想像しにくい場合、まずSaaS型(後述)については、多くの人がプライベートでも日常的に使っているGoogleが提供する各種サービスを想像してみてはいかがでしょうか。
Googleのサービスには、メールソフト(Gmail)、地図ソフト(Google マップ)、オフィスソフト(Googleドキュメント、Google スプレッドシート、Google スライド)、動画再生ソフト(YouTube)、ビデオ会議/チャットソフト(Google Meet)、オンラインストレージ(Google ストレージ)、スケジュールソフト(Google カレンダー)などがあるのをご存じと思います。
それらは「Webブラウザ(やアプリ)からアクセスするだけ」ですぐ使えます。インターネット環境さえあれば、会社のPCでも、手元のスマートフォンでも、自宅のPCでも、使うデバイスは何でも大丈夫です。
ひと昔前は……これらの各ソフトウェアを「モノ(箱に入れられたCD-ROMやフロッピーディスク)」として購入し、それぞれをPCへインストールして、ソフトを個別に起動して使っていました。しかも多くの場合、インストールしたPCでしか使えませんでした。こんな昔の方法を振り返ると、クラウドサービスによって時間も手間も、導入のしやすさも、劇的にといえるほど便利に、多彩に使えるようになったのではないでしょうか。
この利便性を、その他の業務システムやツールにも、そしてハードウェア環境まで「サービス」として利用できること、これがクラウドコンピューティングの大枠な概念、そして利点となります。
クラウドシステムの種類とサービス形態
クラウドシステムは、提供されるリソースの階層(レイヤー)によって、大きく3つのサービス形態に分類されます。これらは、どこまでをベンダーが管理し、どこからをユーザが管理するかという「責任範囲」が異なります。
SaaS(Software as a Service):完成されたソフトウェアを利用
SaaSは、インターネット経由で「ソフトウェアの機能そのもの」を提供する形態です。電子メール、ビジネスチャット、勤怠管理、ERP(統合基幹業務システム)など、多くのビジネスツールがSaaSとして提供されています。
ユーザーはソフトウェアをインストールする必要がなく、ブラウザやアプリからログインするだけですぐに利用を開始できます。アップデートやセキュリティパッチの適用はベンダー側で行われるため、特に利用者(自社)の運用負荷、利用に関するハードルを低く抑えられる形態です。
PaaS(Platform as a Service):開発プラットフォームの提供
PaaSは、アプリケーションを開発・稼働させるための「プラットフォーム」を提供する形態です。OS、ミドルウェア、データベース、プログラミング言語の実行環境などが該当します。
開発者はインフラの管理から解放され、アプリケーションのコードを書くことだけに集中できます。新規事業の立ち上げや、独自システムの迅速な開発のシーンで多く活用されます。
IaaS(Infrastructure as a Service):インフラリソースを自在に制御
IaaSは、CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークなどの「インフラリソース」を仮想的に提供する形態です。3つの中で最も自由度が高く、OSの選択から処理性能、ネットワーク構成などまで、ユーザーが細かくカスタマイズできます。
IaaSは、既存のオンプレミス環境をそのままクラウドへ移行する場合(マイグレーション)や、大規模な計算リソースが必要なプロジェクトに活用されます。
共有責任モデルによるセキュリティ管理の考え方
クラウドを利用する上で避けて通れないのが「共有責任モデル」という概念です。
これは「クラウド自体のセキュリティ(インフラの保護)」はベンダーが責任を持ち、「クラウド内でのセキュリティ(データやアクセスの管理)」はユーザーが責任を持つというように切り分ける考え方です。
例えば、IaaSを利用して構築したサーバ内のOSに脆弱性が見つかった場合、その修正パッチを当てるのはユーザーの責任となります。一方、データセンター自体の物理的な侵入対策などはベンダーの責任です。この境界線を正しく理解することが、安全な運用への第一歩となります。

クラウドサービスの種類別管理範囲
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導入形態による分類:パブリック、プライベート、ハイブリッド
クラウドシステムは、その利用形態によっても分類されます。企業の規模や扱うデータの機密性に応じて、最適なモデルを選択する必要があります。
パブリッククラウド:コスト効率とスピードを重視
パブリッククラウドは、不特定多数のユーザーがリソースを共有する形態です。Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudなどが代表例です。
必要な時に即座にリソースを確保でき、初期投資を最小限に抑えられるため、多くの企業で標準的な選択肢となっています。
プライベートクラウド:高いセキュリティとカスタマイズ性
特定の企業や組織専用に構築されたクラウド環境です。自社のデータセンター内に構築する「オンプレミス型」と、ベンダーの設備内に専用領域を設ける「ホスト型」があります。
金融機関や公的機関など、高いセキュリティレベルや独自のガバナンスが求められる組織で採用されます。
ハイブリッドクラウド:オンプレミスとの併用で最適化
パブリッククラウド、プライベートクラウド、および既存のオンプレミス環境を組み合わせて運用する形態です。
例えば、機密性の高いコアデータはオンプレミスやプライベートクラウドに置きつつ、負荷変動の激しいWebシステムなどはパブリッククラウドを活用するといった適材適所の構成が可能です。
クラウドシステム導入のビジネス成果とメリット
クラウドシステムへの移行は、単なるITコストの削減に留まらず、ビジネスの機動力(アジリティ)を飛躍的に高める成果をもたらします。
- 初期投資の抑制と従量課金によるコスト最適化
- 1000人規模の組織でも迅速な導入が可能
- 物理的な制約を排除した柔軟な働き方の実現
- 災害時やシステム障害に強い可用性とBCP対策
- 運用保守の社内工数削減とIT人材の有効活用
初期投資の抑制と従量課金によるコスト最適化
オンプレミスでのシステム開発・導入は、数百万から数千万円規模と多額の初期投資が必要となることが一般的でした。しかしクラウドならば月額費用などのランニングコスト中心に移行できます。また、利用した分だけ支払う「従量課金制」が一般的であり、不要なリソースを抱えるリスクを排除できます。
1000人規模の組織でも迅速な導入が可能
クラウドシステムは物理的な機器の調達が不要なことから、全社的なシステム刷新までも短期間で実行できます。例えば、1000人規模の社員に対して新しいコラボレーションツールを展開する場合でも、アカウント発行だけで即日導入が可能です。
物理的な制約を排除した柔軟な働き方の実現
クラウドシステムは、インターネット環境があればオフィス、自宅、移動中など、場所を問わず業務システムにアクセスできます。これはリモートワークの普及といった働き方改革の面だけでなく、現場での「リアルタイムな情報共有や意思決定を可能」にします。業務のスピードを加速させる力を容易に得られるようになります。
災害時やシステム障害に強い可用性とBCP対策
クラウドベンダーのデータセンターは、複数の拠点(リージョンやアベイラビリティゾーン)で冗長化されています。万が一特定の地域で災害などが発生しても、別の拠点でシステムを継続稼働できるように準備されています。このことは、利用者である自社目線でもBCP(事業継続計画)対策として極めて有効です。
運用保守の社内工数削減とIT人材の有効活用
サーバのハードウェア故障対応、電気代の管理、物理的なスペース確保といった、いわゆる「ノンコア業務」から情シス担当者が解放されます。これにより、浮いた工数をDX(デジタルトランスフォーメーション)推進などのより付加価値の高い業務へシフトさせることが可能となります。
最後に、「システムの拡張やアップデートが容易で柔軟で、ビジネス環境の変化に迅速に対応できること」こそがクラウドシステムの大きな特長です。必要に応じて容易にシステムをスケールアップ・ダウンでき、最新の機能やセキュリティ対策を常に利用することができます。
この1ページで解決「クラウドERP(基幹システム)」の主な機能、メリット・デメリット、製品選定のポイントを分かりやすく解説
クラウドシステム選定における重要ポイント
市場には無数のクラウドサービスが存在しますが、自社のビジネス成果に直結するものを選ぶには、以下の3つの視点が不可欠です。
- 既存資産や周辺ツールとのAPI連携の柔軟性
- SLA(サービス品質保証)とデータセンターの信頼性
- 日本国内におけるサポート体制とコンプライアンス
既存資産や周辺ツールとのAPI連携の柔軟性
システムは単体で動くものではありません。既存の社内システムや、将来導入する可能性のある他のSaaSなどとスムーズにデータを連携できるかが極めて重要です。端的には、「APIの充実度」を確認しましょう。シームレスな連携ができなければ、データの二重入力など、かえって現場の負荷が増える恐れがあります。
SLA(サービス品質保証)とデータセンターの信頼性
システムの稼働率をベンダーが保証するSLAを確認してください。例えば、99.9%以上などと仕様が記述されます。これはサービス稼働率の保証水準が月間99.9%であること、つまり月間のダウンタイム(停止時間)を0.1%以内に抑えることを意味します。
特に基幹システムを載せる場合はダウンタイムが許されないため、過去の障害履歴や復旧までの平均時間なども調査対象となります。
日本国内におけるサポート体制とコンプライアンス
トラブル発生時に日本語で迅速なサポートが受けられるか、また準拠法が日本法になっているかを確認しましょう。例えば日本企業においては、データの保管場所(リージョン)が日本国内にあることが金融や公共分野のようなプロジェクトでは必須条件となるケースが多くなっています。
よくある質問(FAQ)
クラウドシステムの導入検討において、ユーザーから多く寄せられる質問に回答します。
Q1. クラウドシステムに移行すると、セキュリティは弱くなりますか?
一概にそうはいえません。むしろ自社で不十分な管理をするよりも、高度なセキュリティ投資を行っている大手ベンダーのインフラを利用する方が安全なケースも多いです。ただし、設定ミス(バケットの公開設定など)による漏洩はユーザーの責任となるため、クラウドベンダーとも連携しながら、正しい知識を持った運用が求められます。
Q2. オフライン環境でも利用できますか?
原則として、クラウドシステムはインターネット接続のある環境で使うことを前提としています。オフラインでの利用が必要な場合に向け、一部のデータをローカルにキャッシュして同期する機能を持つシステムなども存在します。また、オンプレミスとの併用を検討する方法もあります。
Q3. 導入後のコストが予想より高くなることはありませんか?
従量課金制の場合、アクセス数の急増やデータの蓄積によってコストが膨らむ可能性はあります。事前にシミュレーションを行うとともに、利用量の上限通知を設定するなどのコスト管理の視点も重要となるでしょう。
Q4. パブリッククラウドとプライベートクラウド、どちらを選ぶべきですか?
スピードとコスト効率を優先するならパブリッククラウド、独自のカスタマイズや厳格なデータ隔離・セキュリティ体制が必要ならプライベートクラウドが適します。もっとも、現在はまずパブリックを検討し、要件を満たせない部分だけを他で補う「クラウドファースト」の考え方が主流です。
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クラウドベンダー/パートナーの選定
クラウドサービスの選定は、初期費用やランニングコスト、導入から運用開始までの期間を基準にするのが基本です。
併せて、製品サービス事業者(ベンダー)の選定もかなり重要です。ベンダーによってサービスの利用料金・プランや契約期間といった条件は異なります。例えば、トラブル対応の内容や定期メンテナンスなど導入後のアフターサービスメニューにも着目しましょう。導入サポートやデータ移行サービスなど、オプションサービスの有無もチェックしておきましょう。
このようにサービス内容を比較検討していくつかまで絞りつつ、不明点があれば遠慮なくベンダーに問い合わせましょう。自社の要件が明確ならばベンダーも的確な回答とともにきっと親身になってくれますし、成長や成果創出に向けて伴走してくれるパートナーとなってくれることでしょう。それに応えられないベンダーならば……縁がなかったと判断もしやすくなります。
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