
企業のデジタル化が加速する中で、従来のERPでは業務変化や新規事業への柔軟な対応が難しくなってきました。最新の技術やクラウドサービスを積極的に活用する「ポストモダンERP」は、各企業の状況や業務ごとのニーズに合わせてシステムを最適な形で組み合わせられるのが大きな特長です。
本記事では、ポストモダンERPの仕組みや従来型との違い、導入時のメリットや注意点、そしてプロジェクト成功のために押さえておきたいポイントまで、わかりやすく解説します。
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目次
ポストモダンERPとは何か? 従来型ERPとは何が違うのか?
近年、「ポストモダンERP」という言葉が多くの企業で話題になっています。これは、ガートナー社が2014年に提唱した新しいタイプのERP(統合基幹業務システム)のことで、従来型のERPの弱点をカバーし、現代のビジネスに合った柔軟性や俊敏性を実現するために登場しました。
時代とともに企業の業務や環境は大きく変化しています。そのなかで「ポストモダンERP」は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進したい企業や、激しく変わる市場にすばやく対応したい経営層から高い注目を集めているのです。
まずはポストモダンERPの基礎から、従来型ERPとの違い、導入することでどんなメリットが生まれるのか、そして導入時のポイントや注意点まで、実践的に分かりやすく解説していきます。
参照 Gartner資料「Definition of Postmodern ERP – IT Glossary」
ポストモダンERPが求められる理由
ポストモダンERPが今、多くの企業で必要とされている理由は、主に以下のようなビジネス環境の変化と従来型ERPの限界にあります。
まず、AIやIoT、ビッグデータなどのようなデジタル技術が急速に進化し、企業の業務やビジネスモデルそのものが大きく変わり始めています。例えば、これまでなかった新しいサービスやニーズとともに、リアルタイムのデータを活用する迅速な経営判断が求められる場面が増えています。
しかし従来型のERPは「一枚岩」のような大規模で大掛かりなシステムでした。業務プロセスを変えたい、新規事業を立ち上げたいといった計画においても、全体的で大幅なシステム改修と高額なコスト、多くの時間が発生しがちでした。グローバル展開している企業では、各国ごとの税制や法改正に迅速に対応しなければならない事情も多々あります。従来のERPだと対応が間に合わず、むしろビジネスの足かせになることが増えたのです。
また、近年では人事や会計、生産、販売など、各業務分野でより専門的な機能が求められるようになっています。例えば「交通費精算」という一見すると昔から一般的である業務1つとっても、頻繁なダイヤ改正や経路・料金変更に都度対応しつつ、申請/承認における各人の部署や権限を踏まえたワークフローで正しく迅速に処理する、モバイル/スマホ対応もしてほしいといった、「そのとき最新」の事情やニーズも踏まえた機能が求められます。このように業務ごとに求められる機能や質が増え、替わるニーズの全てを1つの長年使っているERPパッケージでカバーしていくのはなかなか困難です。
さらにERPを長く運用している/使い続けている企業では、上記のようなニーズに対応すべくカスタマイズや改修・改築を繰り返すごとにシステムが複雑化し、保守や維持費が高騰していく(でも、長年使っているので抜けられない/替えられない)傾向があります。
これは、IT予算の多くが「守り」の運用コストに消えてしまい、戦略的な投資が難しくなってしまう課題「2025年の崖」として警鐘されています。2025年の崖とは、日本で「DX(Digital Transformation)化の停滞」による業務効率や競争力の低下、経済的損失について経済産業省が警鐘を鳴らす意味で用いた言葉です。
こうした現状を踏まえ、変化に柔軟に対応しやすいポストモダンERP、あるいはコンポーザブルERPへの移行が急速に広がっているのです。
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ビジネス変化への迅速な対応を可能にする仕組み
ポストモダンERPが注目される最大の理由は、「変化に素早く対応できる」仕組みを持っていることです。ここでは、その技術的な特徴をいくつかご紹介します。
ポストモダンERPの基本思想は「疎結合」です。
これは、システムの各部分が強くつながりすぎず、必要な時にだけ連携するイメージの構造です。そのため「一部の機能だけ」を最新のクラウドサービスに切り替えるといったことが容易にできます。例えば経費精算だけ最新化したいといったニーズに対応できます。既存の他の会計システムや人事システムに影響を与えることなく入れ替えられ、またそのデータ連携も可能にします。
データ連携の観点で、ポストモダンERPではAPI(Application Programming Interface)の仕組みが中心となります。APIは異なるシステム間でデータや命令をやりとりする「仲介役」です。外部サービスや新技術を取り込むとき、このAPIを通すことでスムーズかつ安全に連携できます。法改正への対応や新サービス立ち上げの際などに、システム全体を停止せずに必要箇所だけアップデートできるのはこの仕組みのおかげです。部分的なアップデートや機能強化がしやすいことも特徴です。
このような柔軟な仕組みとする設計によって業務プロセスの変更や組織再編などにもすぐ対応でき、結果としてビジネスチャンスを逃さず成長を続けやすくなることにつながります。
単一集中型システム主義から脱却、最適な組み合わせを実現
従来型ERPは「ひとつの大きなシステムですべて管理する」スタイルでした。対してポストモダンERPは「必要な部分ごとに最適なシステムを選み組み合わせて運用する考え方」がポイントです。
このアプローチによって、会計や人事など、どの企業でも共通する「コア業務」は信頼できるERPパッケージで安定運用しながらも、変化の激しい部分や専門性・最新性が求められる分野(顧客関係管理、営業・マーケティング管理、販売・製造管理、電子帳票管理など)は、SaaS(クラウドサービス)を併用し補完することが可能になります。全ての業務を1つの大型システムで管理しなくてもよくなり、システム自体もスリムでシンプルに保てます。
ポストモダンERPは最新技術を即座に取り入れやすいことも利点です。例えば用いるツールに応じてAIによる需要予測、データ分析や自動化機能などもサービスとして組み込むことが可能です。自社独自にシステムを開発・構築するよりもコストや時間を大幅に抑えることができるでしょう。
| 構成 | 従来型ERP(モノリシック型) | ポストモダンERP(疎結合型) |
| 管理方法 | ひとつの巨大システムで一元管理 | コアと周辺サービスを組み合わせ |
| 柔軟性 | 低い(変更が難しい) | 高い(部分的に入れ替え可) |
| コスト | 保守費用が高くなりやすい | 必要部分のみ投資しやすい |
| 最新技術 | 導入・開発に時間とコストがかかる | 外部サービスと連携しやすい |
このように、自社の業務内容や将来の事業計画に合わせて柔軟に最適な組み合わせを実現できることがポストモダンERPのポイントです。
モノリシック型・コンポーネント型との違い
ポストモダンERPの特徴をさらに理解するために、従来型ERPの「モノリシック型」、さらには「コンポーネント型ERP」も確認しておきましょう。
モノリシック型ERPは、会計や人事、生産、販売といった自社の業務を1つの巨大なシステムとしてまとめて管理する仕組みです。データの一元化に優れています。しかし、システム変更のたびに全体調整が必要になりがちで、少しの改修にも多大なコストと時間がかかることが課題として挙がります。また、ベンダー(開発会社)に依存する割合が大きく、他社サービスの利用や切り替えが難しくなる課題もかなりの足かせになりがちです。
コンポーネント型ERPは必要な機能を「部品」のようにモジュール単位で選びながら導入し、運用していく方法です。会計・人事・購買などの業務別のモジュールを個別のクラウド製品として提供し、必要な機能を選択して利用できる形態を指します。分かりやすく例えると「○○シリーズ」のようなシリーズ型の製品群構成であることが多いです。
ポストモダンERPは「従来のERPを、中核系と周辺アプリに分けて用途に応じて組み合わせる設計」となる全体的な思想・戦略で、コンポーネント型ERPは「それを具現化した製品形態の1つ」と位置付けるとよいでしょう。
ポストモダンERPで変わるビジネスの在り方
ポストモダンERPは、単なるシステムの入れ替えではなく、ビジネス全体のあり方を根本から変える力を持っています。ここからは、実際にどのような変化が期待できるのかを紹介します。
DX推進の足かせになるレガシーERPからの脱却
多くの企業で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進したいと考えています。しかしなかなか実践できない理由の1つに、長年使っている古いERPシステム(レガシーERP)がその障害になっていることが挙げられます。
レガシーERPは長年のカスタマイズや運用でシステムが複雑化し、担当者も全体像を把握できなくなっていることが珍しくありません。そのため業務プロセスやシステムの変更が難しく、データも部門ごとにバラバラになりがちであるといった課題が挙がることは前述しました。新しい技術や外部サービスとの連携も難しく、こういった足かせがDX推進の妨げになってしまいます。
このような課題を解決し、企業が本気でDXを進めるためにはポストモダンERPへの刷新が不可欠です。システムの柔軟性が高まり、必要な機能やサービスだけを迅速に導入できるようになります。これによって、現場のデータ活用や外部サービスとの連携も格段に進めやすくなるでしょう。
業務のスピードと柔軟性が飛躍的に向上する(アジリティの向上)
ポストモダンERPを導入することで、業務の「スピード」と「柔軟性」が大きく向上します。
たとえば、新しいサービスを始めたい時、従来型ERPだと準備に何カ月もかかっていました。しかし、ポストモダンERPなら、必要なクラウドサービスを選んで契約し、APIでデータ連携するだけで、短期間でシステム面の準備が完了します。結果として、アイデアをすぐに事業化し、市場の変化にもすばやく対応できます。
また、データがリアルタイムに連携・統合されるため、経営者や現場担当者が常に最新の状況を把握できます。これにより、データに基づく素早い意思決定や、現場主導の業務改善も進めやすくなります。各部門が「部分最適」ではなく「全社最適」の視点を持ちやすくなり、会社全体のアジリティ(俊敏性)が高まります。
部門間の連携が強化され、サイロ化が解消される
企業のよくある課題に「部門ごとにデータが分断され、連携しにくい(サイロ化)」問題があります。ポストモダンERPを使うことで、こうしたサイロ化を解消し、部門間の連携が強化されます。
具体的には、ERPのコア部分を中心に、各部門のアプリケーションのデータをまとめて一元管理できるようになります。営業部門、製造部門、経理部門などがそれぞれバラバラに持っていたデータも統合され、全社員が「同じ情報」を見ながら意思決定できるようになります。これによって、部門をまたいだスムーズな業務フローや、業務プロセスの自動化も実現しやすくなります。
ERPによる連携や自動化の事例は、「ERPとRPAの連携で業務を自動化」でご確認いただけます。
関連ERPとPRAの連携で業務を自動化|得られる成果、活用シーンを分かりやすく解説
IT部門の役割が「維持管理」から「戦略パートナー」へ転換する
ポストモダンERPは、IT部門の役割も大きく変えます。これまでは、サーバやシステムの保守など「守り」の仕事が中心でした。しかし、クラウドや外部サービスを活用することで、日常の維持管理業務の負担が軽くなります。
その結果、IT部門のスタッフは「経営にどう貢献するか」「どんな仕組みでビジネス価値を生み出すか」を考える「戦略パートナー」へと役割をシフトできます。システムの設計やサービス選定、API管理、データガバナンスなど、経営や現場と連携しながら課題解決に取り組むことが期待されます。
ERPのメリットについてより詳しく知りたい方は「ERPのメリットは?」もご覧ください。
おすすめERPの本当のメリットは? 「DX」を進める企業に導入が広がっている背景と理由
ポストモダンERP導入の課題と注意点
「ポストモダンERP」はメリットが多い一方で、導入にはいくつかの課題や注意点もあります。ここでは主な3つの観点で解説します。
システム連携や統合の難しさ
ポストモダンERPは複数のクラウドサービスや業務アプリケーションを連携させるため、連携部分の設計が特に重要です。APIの見込みや設計が甘いと、データのやりとりに遅延やエラーが発生しやすくなります。
また、複数システムで同じデータ(顧客名や商品名など)を扱う場合、呼び方や登録方法がバラバラだと連携がうまくいきません。データの一貫性や整合性を確保するための仕組み(マスターデータ管理)が必要です。
さらに、トラブルが起きた時の原因特定も難しくなります。どこで何が起きているのか把握できるよう、ログを一元管理し、サポート体制も整えておきましょう。
セキュリティやガバナンスの強化が必要
クラウドや外部サービスを使う場合、情報漏えいや不正アクセスなどのセキュリティリスクも増えます。特に複数サービスを使う場合は、アクセス管理や権限設定をルール化し、統一する必要があります。
また、データが社内外に分散することで「どの情報がどこにあり、誰が使えるのか」をきちんと管理することが重要です。法令順守(コンプライアンス)やデータガバナンス体制の見直しも不可欠です。シングルサインオン(SSO)などの複数認証方式の仕組みを備えるもの、第三者認証(ISO27001など)を取得したサービスの利用も検討するのも一案です。
ユーザー教育や社内運用体制の見直し
新しいシステムを入れても、使いこなせなければ意味がありません。利用者向けに分かりやすいマニュアルを作ったり、社内でのサポート窓口を明確にしたりして、ユーザー教育やフォロー体制を充実させることが大切です。
また、部門ごとにバラバラだった運用ルールを統一し、困った時にすぐ相談できる環境を整えておきましょう。継続的な研修や情報共有を行い、システムが現場で定着するようサポートしていくことが成功への近道です。
成功に近づくためのポストモダンERP導入ポイント
ここでは、ポストモダンERP導入を成功させるために重要なポイントを3つを紹介します。
- コア領域を見極めて標準化を意識する
- クラウド・SaaS活用を前提に設計する
- 経営層・現場を巻き込んだプロジェクト推進
コア領域を見極めて標準化を意識する
まず、「自社の業務でどこが中心(コア)なのか」をはっきりさせましょう。会計や人事、給与など多くの企業で共通する基盤業務は、ERPの標準機能に合わせてシンプルに運用するのがおすすめです。コア以外の業務は外部サービスやクラウドを活用して柔軟に対応します。
関係者としっかり話し合い、どこを標準化し、どこをカスタマイズするかを決めておくことで、導入コストも抑えやすくなります。
クラウド・SaaS活用を前提に設計する
システム設計の初期段階から、クラウドやSaaSの活用を前提にしましょう。こうすることで、サーバーやインフラ管理の負担を減らし、将来的な拡張やサービスの入れ替えも容易になります。
サービス選定の際は、API連携のしやすさ、セキュリティ、サポート体制などを重視しましょう。最新のサービスや技術を柔軟に取り入れやすくなるため、経営のスピードや柔軟性を高められます。
経営層・現場を巻き込んだプロジェクト推進
ERPの導入は、IT部門だけでなく経営層や現場の担当者を巻き込んで進めることが大切です。経営層が「なぜ導入が必要なのか」を自ら説明し、現場担当者が意見や課題を出し合える場を作りましょう。
プロジェクトのメンバーや役割分担を明確にし、定期的に進捗確認や情報共有を行いながら、全社一丸となって取り組むことが成功のポイントです。
ポストモダンERPをさらに進化させた「コンポーザブルERP」
テクノロジーの進化は止まりません。最近では、ポストモダンERPをさらに進化させた「コンポーザブルERP」も注目されています。
おすすめコンポーザブルERPとは何か? 柔軟な業務基盤を実現する新しいERPの選択肢
ポストモダンERPとコンポーザブルERPの違い
コンポーザブルERPは、ポストモダンERPの発展型です。業務ごとにさらに細かくシステムを構築でき、必要に応じてすぐに機能を組み替えたり追加したりできます。
従来の「コア+周辺」という構成ではなく、すべてを部品(マイクロサービス)として柔軟に組み立てることができます。現場部門も主導して業務アプリを組み合わせられるため、ビジネス部門がシステム刷新の主役になる時代が到来しています。
変化にしなやかに対応できるシステム刷新で競争力を高めよう
まずは、現状のシステムや業務プロセスでどんな課題があるのかを洗い出しましょう。分散したデータ、肥大化した保守コスト、現場の使い勝手など、「なぜ今変える必要があるのか」を関係者で徹底的に議論します。
そのうえで、3年後・5年後のあるべき事業像(To-Be)を描き、必要な機能や組織体制を具体的に検討していきましょう。社内だけで悩まず、導入事例や専門家の知見も積極的に活用することが大切です。
最初から全社一斉に切り替える必要はありません。まずは影響範囲の少ない部門からスモールスタートし、徐々にノウハウを全社展開していくのも有効です。そして、導入がゴールではなく、導入後も業務やシステムの見直し・改善を続けていく姿勢が、変化に強い企業文化を育てます。ぜひ、変化にしなやかに対応できるシステム刷新で、持続的な成長と競争力向上を目指していきましょう。
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