
スマートフォンの普及に伴い、iOSとAndroidの両OSへ向けたアプリやサービスの開発は多くの企業にとって重要な経営課題です。しかし、それぞれのOSで別々にアプリを開発するには多大なコストと時間、そして専門知識を持つエンジニアが必要となります。
この課題を解決する手法として選択されているのが「クロスプラットフォーム開発」です。
この記事では、クロスプラットフォーム開発の基礎知識から、ネイティブ開発との違い、具体的なメリット・デメリット、そして主要な開発フレームワークまでを網羅的に解説します。自社のアプリ開発プロジェクトを成功に導くためのヒントとして、ぜひご一読ください。
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目次
クロスプラットフォーム開発とは? 注目の背景と基本を解説
モバイルアプリ開発の世界で、近年その存在感を増しているクロスプラットフォーム開発。言葉は聞いたことがあっても、その実態やネイティブ開発との違いを正確に理解している方は少ないかもしれません。
本章では、クロスプラットフォーム開発の基本的な概念と、なぜ今多くの企業から注目されているのか、その背景を解説します。
1つのソースコードで複数OSに対応する開発手法
クロスプラットフォーム開発とは、その名の通り単一のソースコード(コードベース)からiOSやAndroid、さらにはWindowsやmacOSといった複数のプラットフォームで動作するアプリケーションを開発する手法のことです。
通常、iPhone向けのiOSアプリはSwift、AndroidアプリはKotlinといったOS固有のプログラミング言語と開発環境(SDK)を用いて個別に開発されます。これを「ネイティブ開発」と呼びます。
一方クロスプラットフォーム開発は、FlutterやReact Nativeといった専用のフレームワークを活用します。これにより、一度プログラムを記述すれば各OS向けそれぞれのアプリケーションを効率的に生成できます。開発プロセスや人員管理などが大きく簡素化され、リソースの最適化が実現します。
なぜ今、クロスプラットフォーム開発が重要なのか
クロスプラットフォーム開発が重要視される背景には、現代のビジネス環境における2つの大きな要因があります。
1つは、市場投入までの時間(Time to Market)の短縮化です。変化の激しい市場で競争優位性を確立するには、アイデアを迅速に製品化し、ユーザーに届ける必要があります。クロスプラットフォーム開発は、iOS版とAndroid版を同時にリリースできるため、開発期間を大幅に短縮し、ビジネスチャンスを逃しません。
もう1つは、開発リソースの最適化です。多くの企業、特に中小企業やスタートアップにとって、iOSとAndroidそれぞれの専門エンジニアを確保し、2つのチームを維持するのは大きな負担です。クロスプラットフォーム開発を採用すれば、1つの開発チーム、1つの技術スタックで対応できるため、人件費をはじめとする開発コストを大幅に削減できます。

ネイティブ開発・ハイブリッド開発との違い
クロスプラットフォーム開発をより深く理解するために、他の開発手法との違いを整理しておきましょう。モバイルアプリ開発の手法は、主に3つに分類されます。
ネイティブ開発
OSが提供する公式・標準的な開発環境(SDK)/プログラミング言語(例えば、iOSならばSwift、AndroidならばKotlin)を使って開発する手法です。OSの機能を最大限に活用でき、パフォーマンスや動作速度に優れる点が最大のメリットです。しかし、OSごとに別々のソースコードが必要なため、開発コストと期間が増大します。
ハイブリッド開発
Web技術(HTML、CSS、JavaScript)をベースに開発し、WebViewなどの仕組みを使ってアプリ上でWebページを表示させる手法です。クロスプラットフォーム開発と同様にワンソースで複数OSに対応できます。ただし、ネイティブ機能へのアクセスに制限があり、パフォーマンス面で劣る傾向があります。
クロスプラットフォーム開発
ネイティブ開発とハイブリッド開発の「いいとこ取り」といえる手法です。フレームワークを介してネイティブのUIコンポーネントを直接描画したり、APIを呼び出したりするため、ハイブリッド開発よりも高いパフォーマンスを発揮します。ネイティブ開発のアプリに近いユーザー体験を効率的に実現できるのが特徴です。
クロスプラットフォーム開発の5つのメリット
クロスプラットフォーム開発が多くの企業に選ばれる理由は、その多くのメリットにあります。開発の現場から経営層まで、幅広い立場の関係者に恩恵をもたらす可能性を秘めています。ここでは、代表的な5つのメリットを具体的なシーンと共に解説します。
【コスト・工数】開発リソースの大幅な削減を実現できる
最大のメリットは、開発コストと工数の大幅な削減です。ネイティブ開発ではiOSとAndroidでそれぞれ別のエンジニアチームが必要ですが、クロスプラットフォーム開発なら一つのチームで両OSのアプリを開発できます。
ソースコードの大部分を共通化できるため、単純計算で開発工数は半分近くに、人件費も大きく抑制することが可能です。たとえば、10人月かかるプロジェクトが2つ(20人月)あった場合、これを12〜13人月程度に圧縮できるイメージです。これにより、捻出できたリソースを新規機能の開発やマーケティングといった、より事業成長に直結する領域に投入できます。
【スピード】製品の迅速な市場投入(Time to Market)が可能になる
一つのコードベースから同時に複数のアプリをビルド(生成)できるため、開発期間を劇的に短縮できます。iOS版とAndroid版を同時にリリースできるため、どちらかのユーザーを待たせることがありません。
特に、新規事業の立ち上げやMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)開発において、このスピード感は強力な武器となります。市場の反応を素早く見て、改善サイクルを高速で回していくアジャイルな開発スタイルとも非常に相性が良い手法です。
【品質】プラットフォーム間で一貫性のあるUI/UXを提供できる
ソースコードが共通化されているため、異なるOS間でもデザインや操作性(UI/UX)の統一が容易です。ネイティブ開発では、各OSの設計思想の違いから、意図せずUIに差異が生まれてしまうことがあります。
しかし、クロスプラットフォーム開発では、共通のUIコンポーネントライブラリを使用するため、ブランドイメージを損なわない一貫したユーザー体験を提供できます。これにより、ユーザーはどのデバイスを使っても迷うことなく、直感的にアプリを操作できるようになります。
【メンテナンス】仕様変更やアップデートの保守・運用が効率的になる
アプリはリリースして終わりではなく、その後の保守・運用が重要です。機能追加や不具合修正、OSのアップデート対応など、メンテナンス作業は継続的に発生します。
クロスプラットフォーム開発では、修正箇所が共通のソースコード一箇所で済む場合が多く、保守・運用の工数を大幅に削減できます。たとえば、バグが一つ見つかった際に、iOSとAndroidそれぞれのコードを修正する必要がなく、一度の修正で両プラットフォームに反映できるため、迅速かつ効率的な対応が可能です。
【人材】Webエンジニアのスキルをモバイルアプリ開発に活用できる
React Native(JavaScript/TypeScriptベース)や.NET MAUI(C#ベース)といったフレームワークは、Web開発で広く使われているプログラミング言語を採用しています。
そのため、既存のWebエンジニアが比較的スムーズにモバイルアプリ開発へスキルを移行できます。ネイティブアプリ開発の専門家(SwiftやKotlinのエンジニア)を新たに採用するのは、現在の市場では容易ではありません。社内の人材リソースを有効活用できるこの利点は、多くの企業にとって大きな魅力と言えるでしょう。
無視できないクロスプラットフォーム開発の3つのデメリット・課題
多くのメリットがある一方で、クロスプラットフォーム開発には知っておくべきデメリットや課題も存在します。これらを理解せずに導入を進めると、プロジェクトの途中で思わぬ壁に突き当たる可能性があります。ここでは、注意すべき3つのポイントを解説します。
- OS固有の機能利用や最新APIへの対応に制約が生じる場合がある
- ネイティブアプリと比較してパフォーマンスが劣る可能性がある
- プラットフォームやフレームワークの動向に依存する
OS固有の機能利用や最新APIへの対応に制約が生じる場合がある
クロスプラットフォーム開発は、各OSの機能を抽象化した共通のAPIを介してデバイス機能にアクセスします。そのため、AR(拡張現実)機能や特定のBluetooth通信など、OS固有の最先端機能を利用したい場合には、対応が遅れたり、別途ネイティブコードを記述する必要が生じたりすることがあります。
プラットフォームのアップデートで新しいAPIが登場した際も、フレームワーク側が対応するまでにタイムラグが発生する可能性がある点は考慮しておくべきでしょう。
ネイティブアプリと比較してパフォーマンスが劣る可能性がある
技術の進化によりパフォーマンスは飛躍的に向上し、多くのアプリではネイティブと遜色ないレベルに達しています。しかし、3Dを多用する高度なグラフィック処理が求められるゲームや、ミリ秒単位の高速な応答性が求められる金融取引アプリなど、極めて高いパフォーマンスを要求されるケースでは、ネイティブ開発に軍配が上がることがあります。
これは、フレームワークが介在する分、わずかなオーバーヘッドが発生するためです。
プラットフォームやフレームワークの動向に依存する
クロスプラットフォーム開発は、Flutter(Google製)やReact Native(Meta製)といった特定の企業やコミュニティが開発するフレームワークに依存します。これは、フレームワーク自体の開発が終了したり、仕様が大幅に変更されたりするリスクを伴うことを意味します。
また、フレームワークにバグがあった場合、その修正を待たなければならないケースも考えられます。特定の技術に依存するリスクを理解し、信頼性の高いフレームワークを選択することが極めて重要です。

クロスプラットフォーム開発を実現する代表的なフレームワーク
クロスプラットフォーム開発を実践するには、その中核となる「フレームワーク」の選定が欠かせません。それぞれに異なる特徴や開発言語があり、プロジェクトの要件やチームのスキルセットによって最適な選択は変わります。ここでは、現在主流となっている3つの代表的なフレームワークを紹介します。
Flutter(Google)
公式サイト:https://flutter.dev/
Googleが開発を主導するオープンソースのフレームワークで、プログラミング言語には「Dart」を採用しています。最大の特徴は、独自のレンダリングエンジンを搭載している点で、OSに依存しない自由度の高いデザインと高速な描画パフォーマンスを実現します。
一度のコード記述でモバイルだけでなく、Webやデスクトップにも対応できる点が強力な魅力です。「ホットリロード」機能により、コードの変更が即座に画面に反映されるため、開発効率が飛躍的に向上します。
React Native(Meta)
公式サイト:https://reactnative.dev/
Facebook(現Meta)が開発した、JavaScriptのライブラリ「React」をベースにしたフレームワークです。Web開発でReactの経験があるエンジニアであれば、その知識を活かしてスムーズにモバイルアプリ開発に入ることができます。
React Nativeは、ネイティブOSが提供するUIコンポーネントを直接呼び出して描画するため、ユーザーはネイティブアプリとほとんど変わらない操作感を実現します。巨大なコミュニティと豊富なライブラリが存在し、情報収集や問題解決がしやすい点も大きなメリットです。
.NET MAUI(Microsoft)
公式サイト:https://learn.microsoft.com/ja-jp/dotnet/maui/what-is-maui
Microsoftが提供する「.NET」プラットフォームの一部で、従来のXamarin.Formsを進化させた後継のフレームワークです。プログラミング言語にはC#を使用します。
Visual Studioという強力な統合開発環境のもと、iOS、Android、Windows、macOS向けのアプリケーションを単一のプロジェクトで開発できるのが特徴です。特にWindowsアプリケーションや、既存の.NET資産を持つ企業にとっては、親和性が高く有力な選択肢となります。
自社に最適な開発手法を選ぶための選定ポイント
クロスプラットフォーム開発は万能なソリューションではありません。そのメリットを最大限に享受するには、プロジェクトの特性や自社の状況を踏まえて、慎重に採用を検討する必要があります。ここでは、最適な開発手法を選ぶために考慮すべき3つのポイントを解説します。

アプリの要件とパフォーマンスのバランスを考慮する
まず、開発するアプリがどのような機能や性能を必要とするかを明確にすることが重要です。
OS固有の最新機能を多用しますか? 高度なグラフィック処理が求められますか? もし答えが「Yes」であれば、ネイティブ開発の方が適しているかもしれません。
一方で、一般的なビジネス系アプリのように標準的なUIと機能で構成されるものであれば、クロスプラットフォーム開発のパフォーマンスで十分なケースがほとんどです。メリットであるコスト削減効果と、アプリに求められる性能要件とのバランスを慎重に比較検討しましょう。
開発チームの技術スキルやリソースを見極める
次に、自社の開発チームが保有するスキルセットを評価します。社内にJavaScriptやReactの経験が豊富なWebエンジニアが多いのであれば、React Nativeの学習コストは比較的低いと言えます。一方で、C#での開発経験が豊富なチームであれば、.NET MAUIが有力候補となります。
もし特定の言語に依存しない新しいチームを組成するのであれば、将来性の観点からFlutterを選択するのも一案です。採用するフレームワークによって必要な技術スキルは異なるため、チームの現状と照らし合わせて無理のない選択をすることが成功の鍵です。
将来的な拡張性やメンテナンス性を視野に入れる
アプリはリリース後も継続的に改善、成長させていくものです。将来的にどのような機能を追加する可能性があるか、長期的にメンテナンスを続けていける体制は組めるかといった視点も忘れないようにしましょう。
それに向けては、選定するフレームワークのコミュニティは活発か、開発元によるサポートは継続しているか、将来のOSアップデートにも迅速に対応できそうかといった将来性を見極める必要があります。短期的な開発効率だけでなく、プロダクトのライフサイクル全体を見通した上で、技術選定を行うことが重要です。
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開発をさらに効率化するソリューションの活用
フレームワークを用いたスクラッチからの開発は自由度が高い一方で、一定のプログラミングスキルが求められます。しかし、アプリ開発の選択肢はそれだけではありません。近年では、開発の専門知識がなくても高品質なアプリを構築できるソリューションも登場しています。
こうしたツールを活用することで、開発工数をさらに削減し、非エンジニア部門のメンバーもアプリの企画や更新に参加しやすくなるなど、新たな可能性が広がります。








