米連邦議員は今月開会の本会議に向けて準備を進めているが、2005年度の連邦議会では、P2Pファイル交換に重点を置いた法案も含め、オンライン著作権保護の問題が再び取り上げられる見通しだ。
技術分野にフォーカスしている議員の間では今年、電気通信改革に大きな注目が集まると見られているが、その一方で議会の観測筋たちは、P2Pソフトを使ったファイル交換の阻止を目指した新たな法案も検討されるものと予想している。
議員の中には、依然としてP2Pソフトメーカーを罰する方法に関心を抱いている向きもあるが、そのほかの議員や公共の利益団体の間には、著作権保有者に対してP2Pベンダーを訴える権利を認めるか否かをめぐり活発な議論を呼んだような法案が2005年に再び注目されることはないと予測する声もある。
オリン・ハッチ上院議員(ユタ州選出・共和党)が提出したInduce Act(誘発法)と呼ばれる法案は、同法案に反対する技術団体や市民権団体との間で妥協点を見い出すことができず、結局、2004年後半に上院司法委員会の通過に失敗している(10月1日の記事参照)。批判的な向きは、著作権侵害行為を「誘発」する者を対象とした同法案はあまりに定義が広いため、音楽・映画業界に対して、新興技術に投資するベンチャーキャピタリストやデジタル録音製品をレビューするジャーナリストも含め、さまざまな相手を提訴する権利を認めることになってしまうと指摘していた。
ハッチ議員の広報担当者は、2005年の著作権法案をめぐる具体的な計画については公表を断っている。
この広報担当者はメールで次のように語っている。「ハッチ議員は、知的財産権を保護するための取り組みを今後も積極的に継続していく方針だ。同議員は、知的財産権が確実に保護されるよう議会が取り組むべきだと強く確信している。また技術の進歩と変化に伴い、米国特許や商標、著作権法などにも必要な範囲で改正を加え、そうした変化を反映させる必要があると考えている」
昨年提出されたInduce Act法案に対する支持が少なかったことから、同法案に似た法案にとって今年は難しい1年になるはずだと予測する議員もいる。リック・バウチャー下院議員(バージニア州選出・民主党)によれば、この「ほとんど支持されなかった」法案は多数の技術団体や市民権団体の反対にあったという。
バウチャー議員は通常、デジタル著作権法を強化する法案には反対の立場を示しており、今年は、映画や楽曲も含め、著作権付きのデジタルコンテンツを消費者が個人的にコピーすることを認める法案を再度推進する計画という。同議員が2003年に提出したDigital Media Consumers' Rights Actはいくつかの消費者権利団体や技術ベンダーに支持されたものの、昨年、下院エネルギーおよび商業対策委員会を通過できずに終わっている。
同委員会は今年は、同様の法案をもっとじっくり検討することになりそうだ。バウチャー議員の法案を共同で提出したジョー・バートン下院議員(テキサス州選出・共和党)は、2004年2月に同委員会の委員長に任命されている。バートン議員はデジタル消費者権利法案を推進する計画を明らかにしている。
ただし、今年はもっと厳しい著作権法を要求する声も多く聞かれることになるはずだ。主要なソフトベンダーを代表する非営利団体のBusiness Software Alliance(BSA)は今月、特許改革や著作権保護も含め、同団体が法制化を求める優先事項に関してホワイトペーパーを発表した(1月11日の記事参照)。
BSAの幹部によれば、P2Pネットワークを介したソフトの交換は音楽や映画の交換ほど注目を集めていないものの、同団体の加盟企業にとってソフトの海賊コピー行為は最大の問題だという。上述のBSAのホワイトペーパーには議会が採択すべき具体的な法案は明記されていないが、BSAは同文書において、米国の警察当局に対しては、既存の著作権法の施行を強化するよう要求し、議会に対しては、技術企業による「革新的な新製品」の開発を阻むことなく、著作権法で海賊コピー行為に確実に対処できるようにすることを求めている。
BSAの社長兼最高経営責任者(CEO)ロバート・ホリーマン氏によれば、議会はP2Pサービスの拡大について検討し、著作権侵害の訴追のために十分な情報をインターネットサービスプロバイダー(ISP)が警察当局に提供しているかどうかを確認する必要がある。Verizon Internet Servicesなど一部のISPは、1998年のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の条項を根拠にユーザーの身元開示を求める召喚状をめぐり、レコード業界の取り組みに抵抗している。
「議会が目指した目標は全部は満たされないだろう。われわれは、議会がこの問題を検証する必要があると考えている。だが、われわれは法案を要求するまでには至っていない」とホリーマン氏。
同氏によれば、Induce Act法案は「著作権保護の必要性」と「技術企業が新製品を市場に投入する能力」との間でうまくバランスをとることができなかった。
また、P2Pベンダーを代表する業界団体P2P Unitedの事務局長アダム・アイスグラウ氏は、Induce Actに対する反発は強かったものの、今年は既存の著作権法の強化を目指した法案がさらに多数登場することになると予想している。
同氏は、音楽・映画業界がP2PベンダーのGrokster、StreamCast Networks、およびMusicCity.comを相手取って起こした訴訟の判決が米最高裁で下されるまでは、P2Pファイル交換の問題を解決するための法案はあまり提出されることはないと予測している。下級裁判所は既に、P2Pベンダーにはユーザーの著作権侵害に対する責任はないとする判決を下しており、最高裁は2005年半ばに判決を下すと見られている。
「著作権をめぐる非常に強力な利害関係者らはこれまで、あらゆる本議会において、起訴の障壁を下げようと苦慮してきた。Induce Act法案を支持した強力な利害関係者たちが今後もこの問題を中心に据え続けるためにあらゆる手段を講じるものとP2P Unitedでは予想している」とアイスグラウ氏。
2005年に予定している法案について問い合わせたが、全米レコード協会(RIAA)から返答は得られなかった。
2005年に連邦議会の議題に上るであろう、そのほかの技術関係の問題には、以下のようなものがある。
メアリー・ボノ下院議員(カリフォルニア州選出・共和党)は、ユーザーのコンピュータから個人情報を盗んだり、ブラウザをハイジャックするソフトのメーカーに対して最高300万ドルの罰金を課せるようにする法案を再提出している(1月7日の記事参照)。この法案は2004年に下院を通過したが、上院を通過できなかった。同議員のオリジナルの法案では、「明示的な許可なしにユーザーのコンピュータを変更するソフト」というようにスパイウェアが広範に定義されたが、その後、アンチウイルスソフトなどのベンダー各社による苦情を受けて、同法案はスパイウェアを定義するのではなく、スパイウェアに関する行為を違法とする内容に修正された。
2004年1月に施行された迷惑メール対策(CAN-SPAM)法に追加する新たな法案が通過することはなさそうだ。ただし、委員会はこの法律の効果に関する聴聞会を行うかもしれない。この法律に対しては、頼みもしないのに送られてくる商用メールの減少にほとんど役立っていないとの批判の声が上がっている。
民間事業にサイバーセキュリティ対策を義務付ける法案は議題に上りそうにない。ただし、議会が米国企業改革法(Sarbanes-Oxley Act)などの既存の法律に変更を加え、企業の報告義務にITセキュリティに関する項目を含める可能性はある。
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