HD時代のホームシアター作法:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(4/4 ページ)
手間はかかるものの、映画館のような空気感と大画面を家庭で楽しめるホームシアターには根強いファンが存在する。BDソフトが充実しつつある今こそ、「HD時代のホームシアター」を見つめ直す良い機会だ。
スピーカーでは米「MK Sound」の製品に注目しました。オトテンのタイムロードブースでイベントをしましたが、聴きながらやっと本物の映画スピーカーが登場したとの感慨を持ちました。MK Soundのスピーカーは元来モニター用で、ほとんどのスタジオのホームエンターテイナー部門に導入されています。映画作品をパッケージメディア用にリミックスする場合のリファレンススピーカーとして標準的に活用されています。実に音のスピードが速く7.1ch時の空間表現が上手で、レンジが広く小さな音から爆発音のような大音量までを的確にハンドリングしている印象です。その音色も現代的で疲れを感じさせません
トライポールというTHXでのダイポール指定に正面音を加えたサラウンドスピーカーの工夫もよく考えられています。サラウンドシステムといえば小ささなサテライトスピーカーを採用する製品も多いですが、このように、サラウンドを前提としたリファレンスのスピーカーが登場したのは特筆すべきことでしょう。
MICRO HOME INSTALLATION,INC.の「Evidence MM01A」は音声や楽器を非常にきれいに奏でるブックシェルフスピーカーですが、その小ささが気に入ってサラウンドを組んでみたところ、音色が麗しく、とても上手に空気感を演出してくれました。点音源的な音場感で箱を鳴らすタイプなので、それが功を奏したのでしょう。低価格(2本ペア8万4000円)なのでおすすめできる製品ですね。
放送のHD化、オーディオのHD化は開始されて久しくなっており、それらに呼応するテレビ・オーディオ機器のクオリティは格段に向上しています。それにBDというパッケージメディアが質量ともに追いついてきたというのがホームシアターを取り巻く現状です。パッケージに封じ込められたクオリティをどこまで引き出せるか――それを念頭において機材選びやセッティングを進めるとよいですね。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)――初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。
「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)――高画質への闘いを挑んだ技術者を追った「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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