スマホと“萌”が10年の停滞を打ち破る? 「萌家電」を見てきた:とりあえず楽しい(2/2 ページ)
ソニーCSLと大和ハウス工業の共同プロジェクトが注目を集めている。Androidアプリを用い、スマートフォンからゲーム感覚で各種家電を制御するという試みは、スマートハウスに“エンターテインメント”という一石を投じる提案だ。
アプリのみならず開発環境まで公開するのは、「多くの人に参加してもらうことで、それまで思いつかなかった協調アイデアを集めることができるため」(大和田氏)。擬人化された家電というキャラクター達が展開するストーリーは、従来にないユーザーや開発者を獲得する可能性がある。彼らの創作意欲を刺激するためにも、「家電ネットワークは、“いじれる化”が重要」と指摘する。
また、発表以来、家電を擬人化した萌キャラばかりに注目が集まっているが、実はデモンストレーションの1つ1つにも明確な狙いがある(ないものもある)。例えば「扇風機ギャルゲーリモコン」。ユーザーと扇風機が遊園地でデートするというシチュエーションで、ユーザーが選択するアトラクションによって扇風機の風量が変わる。ジェットコースターに乗ると風が“強”になり、メリーゴーラウンドを選ぶと“弱”となる。
「これは、言ってみれば非常に使いづらく、くだらないリモコンです。このくらだらなさによって、個人や開発者の創作欲を刺激することを意図しています」(説明員)。
デモンストレーションはなかったが、「眼鏡は顔の一部」というシナリオもユニークだ。いたずら好きなブルーレイたちは、唯一の“めがねっ娘キャラ”であるフォトフレームのメガネを外してみようと画策。すると、メガネが外れたとたん、家中の照明が消灯してしまう。「世の中には知らなくてもよいことがあるのですよ」(時計)。教訓というより完全にネタだ。
一方、電化製品の使い方を分かりやすく教示するストーリーもある。「空調機たちの夏」は、扇風機とエアコンを併用する省エネのノウハウをさりげなく教えてくれるゲーム仕立てのイベントだ。クリアの条件は、扇風機とエアコンの電気代の合計が、あらかじめ設定した金額より小さくなること。達成するとメロドラマ風のアニメーションが展開され、なんと扇風機とエアコンが結婚してしまう。さらに、リモコンには扇風機とエアコンが協調動作する新しい動作モードのボタンが追加されるのだ。単に便利な機能をインストールするのではなく、どうしたら節電になるかという仕組みに関する“気づき”を与えることが目的という。
家電メーカーや関連サービス事業者が興味を持ちそうなストーリーも用意していた。例えば、家電のファームウェアアップデートがメーカーから提供されていると、キャラクターは具合が悪くなって病院へ行きたがる。ユーザーが許可すると病院へ行ってキャラは元気になり、ついでに新しいコスチュームをもらってきたりする。「ソフトウェアアップデートというと、これまでは面倒な作業というイメージでしたが、キャラクターが介在することでユーザーの心理的負担を下げられるのではないか。既存のメーカーサービスがどのように変化するかを検証したい」(説明員)。
また、Blu-ray Discレコーダー(ブルーレイ)とウォークマンドックのかけあいでコンテンツ購入を勧めるシナリオもある。新作映画のトレーラー(予告編)をダウンロードしたブルーレイは、ユーザーに視聴を勧める。視聴すると、流れていた楽曲にブルーレイがいたく感動。ウォークマンドックが横から出てきて音楽配信サービスに映画のサントラがラインアップされていることを教えてくれる。「買って聞いてみない?」(ブルーレイ)。購入するとブルーレイの衣装が増えたりする特典もあるが、その気がなければ「いいえ」を選択すればいい。キャラクターを使うことで、あまり商売っ気を感じさせない(かもしれない)サービスが可能になる。
キャラクターのデザインやムダにも見えるストーリーには賛否両論があるだろう。しかし、今回はあくまでも実験であり、コンセプトの提示とシナリオの作例を示しただけ。その仕組み上、キャラクターやセリフはすべてカスタマイズが可能で、コンセプトとプラットフォームが市場に受け入れられれば、さまざまな趣味や嗜好(しこう)に合ったキャラクターが登場する可能性は高い。
ちなみに今回の公開実験にあたり、ソニーCSL内では複数のキャラクターを用意していたが、自信たっぷりで提出した“豚キャラ”が社内で「かわいくない」と一蹴(いっしゅう)され、注目度アップも期待できる萌キャラに決まったという。大和田氏によると、それでも発表後はTwitterを中心に一般ユーザーから多くの“ダメ出し”をもらっているという。「今回お見せする技術は、まだまだ研究レベル。きびしいフィードバックを頂き、次の開発に生かしていきたい。今なら“耐性”があるので、もっとご意見をください」と笑う。
キャラクターデザインに対する賛否はともかく、今回の試みが家電ネットワークについてまわった“難しい”“高価”といったイメージを払しょくする試みであることは確かだ。注目を集めることには成功した。アプリと開発環境が公開される秋以降は、シナリオやキャラクターのみならず、賛同企業や対応製品といった成果も期待したい。
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