ネットとアプリで視聴者に魔法をかける? テレビ局の挑戦:本田雅一のTV Style
映画やサッカーをテーマにしたテレビ局のセカンドスクリーン企画が続々と登場している。放送と通信サービスのコラボレーションは何を生み出すのか?
前回触れた「2013年ぜんぶやります!ハリー・ポッター祭り!」は、その後、2回分の放送を経て、この夏に放送される第3作までのインターバル期間に入っている。前回も書いたように、テレビ番組のWebページは事前にアクセスする人の数は(視聴者全体の数からすると)とても少なく、放映後に放送内容や出演者などの情報を求めて訪問する人が多い。つまり、番組宣伝のツールとして、Webはテレビ視聴者の動線において”ポータルではない”ということだ。
その後のサイト構築の様子を見ると、英語レッスンのコンテンツや毎日引けるクジなどを用いてカスタマーリテンションを保つ、という段階。インターバル期間に多くのアクセスを集めようというより、少しでも話題を作っておいて、また夏に放送を再開する際には、シリーズ全体を通してSNSアカウントと紐付けたポイント制で視聴者に”思い出してもらうきっかけを作ろう”という、比較的ゆるやかなコンテンツ連動となっている。これまでやってきた、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版 TV版」のヤシマ作戦連打企画や、サッカー中継のクラブワールドカップ選手権における連打企画とは異なる方向での使い方を模索している印象だ。
2012年11月に放送された「ヱヴァンゲリヲン新劇場版 TV版」(序、破)の連動企画「ムーヴィシンクロナイザ」の画面。「序」のクライマックスシーン「ヤシマ作戦」では、「発電ボタン」を連打して全国の参加者と“一斉発電”が楽しめた (c)カラー
こうした企画によって、視聴者が本当に楽しんでいるのか? というと、少なくともヱヴァンゲリヲンの際には(ストーリーを知っているファンが多いこともあるだろうが)、全国のヱヴァ・ファン同士が一体化しながらテレビを観るという、バーチャルな“お茶の間テレビ”的面白さは引き出していた。
このやり方、すなわちJoinTVも、単にスマートフォン向けWebページを作るだけならば、たいした話ではない。しかし、データ放送を絡めることで、個と個を結びつけるインターネットサービスと、より多くのファンに同時に同じコンテンツを配信する放送サービスをつなぐアイデアとしては独創的だったと思う。
放送という枠で勝負しなければならない放送局が、初めて放送と通信をコンテンツ、番組企画として融合できる仕組みを作ったのだから、これに刺激を受けなければ嘘だろう。さらに発展するためには、1億台を超えるインストールベースを持つが、一方で制約も決して小さくないデータ放送という枠を超えていかねばならない。しかし、ネットカルチャーや技術面にはあまり興味を持たない番組制作や、広告代理店、あるいは広告価値の評価を行うクライアントを含めて、何か新しいことができるかもしれないと、同じ方向を向かせたことの意味は大きい。
先日も、「2014FIFAワールドカップ」最終予選の日本×ヨルダン戦で、テレビ朝日と電通が、クラブワールドカップ選手権のJoinTVアプリにインスパイアされたと思われるセカンドスクリーンサービスを行った。残念ながら、テレビ朝日ならではの新たな要素は付け加えられていないようだが(日本テレビやシステム開発を担当したバスキュールからライセンスされたものだと思ったのだが、まったく関係ないとのこと)、周りを巻き込んでより面白い企画や、将来の新しいスタンダードへとつながっていけばいい。今はまだ端緒でしかない。
テレビ朝日が3月26日放送の「2014FIFAワールドカップ ブラジル アジア地区最終予選 ヨルダン×日本」で実施した「いくぞブラジル!絶対突破大作戦」の画面。こちらも“突破”ボタンを連打することで参加者の一体感を演出する仕組みだった
さらに先に進むには、もっと放送と通信サービスが、それぞれの得意分野でコラボレーションをする必要がある。例えば放送される番組の背景を、ニコ生で捉えながら、毎週の番組制作に少しでも視聴者が関われるといった企画はどうだろう。それぞれ異なる特長、異なるマネタイズ手法、異なるコスト感覚だが、まったく異なるものだからこそ、相性が良い組み合わせとなる場合もある。
と思っていたら、フジテレビとドワンゴが深夜番組の制作を共同で行うというニュースが入ってきた。(続く)
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