イノベーションは常に起こせる――エアブレード発表から見えたダイソンの姿(2/2 ページ)
日本ではダイソンを“掃除機などの家電メーカー”と認識している人が多いと思うが、それは表面的に見える部分だけ。実は「空気を動かす」技術に特化した研究開発とエンジニアリングの企業だ。
ダイソンのアプローチ
ダイソンの研究開発を統括するUKデザインディレクター・アレックス・ノックス氏も、25歳のときにデザインコンサルティング会社からダイソンに転じた“若いエンジニア”の1人だった。当時は社員がまだ10人ほどで、ノックス氏は「『成功すると信じていた』と言いたいところだが、実は全く思わなかった。ただ、会社のアプローチが面白くて興味を持った」と振り返る。
日本ではダイソンを“掃除機などの家電メーカー”と認識している人が多いと思うが、それは表面的に見える部分だけだ。ノックス氏によると、ダイソンは「空気を動かす」技術に特化した研究開発とエンジニアリングの企業だという。
例えばエアブレードの発表を見た人は「英国ではハンドドライヤーがまだ普及していないのか?」と思ったかもしれない。新規参入なら成長余地のあるところを狙うのが当然だからだ。しかしハンドドライヤーが広く普及している日本に持ってきたことについてはどう解釈したらよいのか。「市場性を見誤った」と捉える人もいたかもしれない。
ダイソンの製品開発は、市場性から入る形ではない。ジェームズ・ダイソン氏が語ったエアブレードの開発経緯は、「あるエンジニアが10年前から“シート状の空気”の実験をしていた。その目的や詳細は話せないが、あるとき1人のエンジニアがこの空気を使って手が乾かせると気づいた」。つまり、最初は別の目的で研究開発していたが、その成果から別の用途が生まれたことになる。
市場性に注目するのはこの後で、今ある製品に足りないものや「使う人が困っていること」を洗い出す。今回の場合は衛生面と手洗いの効率に注目し、世界最速の空気の層を使い、HEPAフィルターを通すことにより、既存のハンドドライヤーよりも衛生的で早く乾かせるという“強み”をプラスした。強みのある製品は一定のファンを生むため、成熟した市場でも存在感を示す可能性はあるだろう。そして自社の技術は特許で徹底的に守る。エアブレードの場合、出願中を含めた特許件数は110件で、それとは別にV4デジタルモーターでも100件を数えるという。
若いエンジニアを集め、こと「空気を動かす」技術に関しては、自らテクノロジーツリーを延ばしていくような勢いで研究開発を進めるダイソン。空気を動かすためにデジタルモーター技術を磨き、空気の音がうるさいと言われればヘルムホルツ式空洞を用いた。開発した技術はジャンルの全く異なる製品にも採用されるため、むしろ研究開発の効率は良いのかもしれない。ジャンルや事業部にこだわる日本企業とは全く異なる“選択と集中”の形が垣間見えた。
「われわれは研究開発に投資し続けている。そして、より効率の良い機械が実現すると信じている。イノベーションは常に起こせるものだ」(ダイソン氏)。
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