「NETFLIX」の上陸はテレビに何をもたらすのか――フジテレビ&ネットフリックスインタビュー(2/2 ページ)
秋には日本でもサービスを開始する注目の動画配信サービス「NETFLIX」(ネットフリックス)。国内展開にあたり、同社が最初に手を組んだのはフジテレビだった。合意までにどのような経緯があったのか。詳しい話を聞いた。
コンテンツにとって幸せな状況
2つのコンテンツは、NETFLIXのサービス開始と同時に独占プレミア(先行)で配信される。テレビ局が“放送前”のコンテンツを他事業者に渡すことに違和感を持つ人もいるかもしれないが、テレビ局はプラットフォームであると同時にクリエイターでもある。
「例えば資本力なら放送局よりも大きい会社はたくさんあります。プラットフォームが巨大化したとき、われわれはソフト制作力を積極的に発信していくしかありません。最後に勝つのは“優秀なクリエイティブ”。出口がどこであろうと、良い作品を持っているところが勝つのです」(斎藤氏)。
著作権はフジテレビが持つ。一定期間、「NETFLIX」限定でネット配信を行うが、その後は地上波放送や「フジテレビオンデマンド」での配信も予定している。「ビジネスモデルとして捉えた場合、今回の発表はNetflixがSVOD権を持ち、それ以外はフジテレビということ。われわれはフジテレビオンデマンドでVODは手がけていますが、サブスクリプション型のサービスは持っていません。やっていない部分は『どうぞ』ということです」(斎藤氏)。
発表会と同様、両社ともコンテンツ供給の対価について多くは語らなかった。ただ、1つはっきりしているのは、コンテンツが新しい流通経路とビジネスの手法を得たことだ。そしてNetflixの大崎氏は、「より重要なこと」として海外進出の可能性を挙げている。世界40カ国に広がるNETFLIXのサービスを通じ、「テラスハウス」や「アンダーウェア」を配信すれば、世界中の人が日本発のコンテンツを見て、「良い循環を生み出す可能性がある」(大崎氏)。
コンテンツの海外展開というと、映画公開やパッケージ販売(DVDやBD)のイメージが強いが、それだけではない。例えばテレビ番組の場合は「フォーマット販売」という形もある。海外の放送局が「テラスハウス」を見て魅力を感じたとき、フォーマットを購入して現地のキャストを使い、同様の番組を作ることができる。いわばライセンスと制作ノウハウをセットにして販売するようなもので、テレビ業界ではごく普通のビジネスになっている。「miptv」のように世界中の放送関係者が集まる大規模なコンテンツ見本市も開かれている。
「フォーマット販売を売り込むとき、相手が内容を理解するまでに時間がかかるものです。しかしNETFLIXを通じて配信されていれば交渉も早い」(斎藤氏)。ほかにも海外でドラマが人気になれば、放送権やパッケージ販売といったビジネス機会も増えるだろう。あるいは出演者に海外の制作者からオファーが来るかもしれない。
「これはビジョンというより、可能性ですね。よりリーチが広がる可能性があるということはソフトにとって幸せな環境。Netflixのそうした部分にも(フジテレビは)賭けてくれているのかな、と思っています」(大崎氏)。
このほか、フジテレビにとっては自局で放送する前にコンテンツの認知度が上がる効果も期待できる。海外のNETFLIXはプレミア配信コンテンツのPRにも積極的で、大崎氏は「日本でも適切なコミュニケーション手法で展開します」と話していた。
また斎藤氏は、海外展開の可能性や新しいビジネス機会が日本のコンテンツ制作現場にも良い影響を与えることを期待している。「通常、番組は与えられた予算内で作らなければなりません。お金がかかりすぎる場合、『これは無理だな』と折り合いをつけることもある。しかし、(NETFLIXと)一緒にやることでソフト制作者の夢は膨らみます。最初に申し上げましたが、今回は映画ほどのバジェットではありません。でも、これをきっかけに将来は『ハウス・オブ・カード』のような企画もできるかもしれません」(斎藤氏)。
大崎氏が続ける。「もちろん、お金をかけることが、そのままコンテンツの質の向上につながるわけではありません。しかしNetflixは“野望”というより、(実現可能な)“目標”として『世界の人々に素晴らしいストリーリーを届けよう』と考えています。そのために投資することもわれわれの哲学です」(大崎氏)。
巨大プラットフォームでもあるNETFLIXの上陸は、日本のコンテンツ業界にどのような影響を及ぼすのか。少なくとも国内の放送局の中にも“脅威”ではなく可能性を感じた人たちがいることは確かだ。
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