曲面テレビはもう終わり?――IFAで見つけた“近未来”:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(6/6 ページ)
今年のIFAでAV評論家の麻倉怜士氏はどのようなトレンドを見つけたのか。前回は有機ELテレビを取り上げたが、今回は8KやHDR、曲面ディスプレイといったテーマごとに映像機器の動向を読み解いていこう。麻倉氏ならではの業界ウラ話も……。
パーソナルオーディオの音質が上昇傾向
――オーディオで言うと、今回はソニーブースがなかなかの盛り上がりを見せていたように思います。
麻倉氏:デスクトップミュージックのハイレゾ化という提案が見られましたね。日本のデスクトップオーディオシーンでは、オラソニックの卵型スピーカーが好評価を得ています。先日96kHzのハイレゾ入力に対応したということで、IFA前に東京でオラソニックを聴きました。これまでも卵型はクリアな音場を見せていたのですが、ハイレゾ化してより強みが活かされてきたと感じました。
こういった流れを受けて、ゼネラルオーディオの大御所であるソニーが動きました。今回発表された「CAS-1」はかなり力が入ったきっちりした作りになっています。ソニーの強みはゼネラルオーディオでも手を抜かないことです。例えば「SRS-X99」というラジカセタイプのものは、ドンシャリにならずにバランスの取れた音で、あのテの中でピカイチに良いですね。
今回のCAS-1は、単品コンポーネント由来の「ESテクノロジー」とデジタルアンプのテクノロジーを使っています。スピーカー自体も新規設計で安定性の高い音です。デスクトップミュージックはスピーカーと耳の距離が近く目の前から音が来るので、スピーカーの質そのものが問われます。デスクトップで聴くバランスとクオリティ、特に音の緻密さという点では、CAS-1がピカイチの音です。
――会場の試聴スペースもゆったりとした作りになっていて、まじめに音に向き合ってもらおうという姿勢が表れていました
麻倉氏:クオリティを保ってデスクトップを拓いていくというこの流れは、テクニクスにも見られました。昨年はハイエンドとミドルレンジを発表しましたが、今年の新製品はデスクトップといえるサイズの「OTTAVA」です。新生テクニクスの技術やパフォーマンスを詰め込み、小さくてもクリアで解像度の高い、テクニクス的な音をしっかりと聞かせます。
そのほか、数社からも来年に向けて新しく、デスクトップでも使えるハイパフォーマンスでトータルバランスの良いものを作っていく、という声が私の耳には入ってきています。今回デスクトップサイズに「ハイレゾ」というキーワードが入ってきて、従来の延長では存在しえなかったものでも、ハイレゾで一皮むけることで新しい商品性が出てくるというのがIFAで見られました。
――これは音楽に対して以前よりも多くの人が「いい音の音楽を聴きたい」という流れになってきた表れですね。パーソナルオーディオの主戦場はヘッドフォンだと思うのですが、数年前から比べると圧倒的に音質のレベルが上昇していて、それに伴ってユーザーの要求レベルも上がっています
麻倉氏:ハイエンドヘッドフォンも増えたので、すごく増えているヘッドフォンユーザーは家でもヘッドフォンですね。でもヘッドフォンでは「空間性」の表現に深刻な限界があります。ハイレゾでは音に包まれる空間性の表現が重要で、これがヘッドフォンでは不可能。頭内定位になってしまい、水平方向の空間感が出ません。ここがスピーカーと圧倒的に違うところです。
これはいくら音質が向上しても、絶対に解決できない物理的な問題です。ヘッドフォンももちろん良いのですが「音楽の楽しみをヘッドフォンで終わらせない」「いかにスピーカーで空間を聴いてもらうか」が業界のキーワードになっています。ハイレゾが出てきたことで、ヘッドフォンを通じてスピーカーに流れていくという方向をオーディオ業界全体が模索しています。
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