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ソニーがハイエンド商品を続々投入できた理由、そして欧州のオシャレな有機ELテレビ事情――麻倉怜士のIFAリポート2016(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(6/6 ページ)

2016年のIFAでは、多数のハイエンド製品を発表したソニーや、欧米における復活の第一歩を歩みだしたシャープなど、モノとテクノロジーの本質が垣間見えるブースがあちらこちらで見られた。リポート後編は、こうした製品やブースにおける各社のコンセプトを麻倉怜士氏独自の目線で読み解いていく。

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オーディオになるヤマハの自動演奏ピアノ

麻倉氏:オーディオ系の話題としては、ヤマハの自動演奏ピアノが非常に面白かったです。既に発表済みのものですが、ヤマハの自動演奏ピアノに音楽伝送システムの「music cast」を組み入れたものを展示していました。同じ部屋の中にスピーカーがありアンプがありピアノがありという環境ならば、ピアノは自動演奏で生のピアノ音を出します。その他はMIDIで同期して、スピーカーからストリングやパーカッション、あるいはコーラスといった合奏が出てきます。

 ビックリしたのは、音楽と機械の関係について今まではピアノはピアノ、オーディオはオーディオという世界で進歩してきたのが、楽器とオーディオが融合というか、楽器と機械がハーモニーを奏でる世界というのが、次のオーディオの切り口になってきたことです。今はまだピアノだけですが、MIDIで音源生成すればそれらしい音が出てくる訳なので、技術的にはピアノ以外の楽器でも無限に出せます。


音と技術という方面でヨーロッパにおいて圧倒的なブランド力を持つヤマハブースでは、自社のネットワークオーディオシステム「music cast」を自動演奏ピアノに搭載するというユニークな展示で来場者の注目を集めた。ネット上では通称「ヤマハコピペ」なるものが流布しているが、この展示ほどアコースティックな楽器から最先端DSPまで何でもこなしてしまうという企業姿勢を体現したものはないだろう

――DTM(デスクトップミュージック)の世界では極めてアコースティックに近い音源がありますね。音楽制作の現場でも用いられているようなハイクオリティーの音源であれば、アコースティックなピアノ音にも充分に耐えられるでしょう

麻倉氏:面白いのは実際の演奏を収録し、そのデータをピアノで自動演奏し、その他をMIDIにしてスピーカーへ振り分けると、融合した空間ではかなり生演奏っぽい演奏会になるという技術です。ヤマハの話では、例えば一時期同社のアドバイザーを努めていたピアニストのスビャトスラフ・リヒテルの演奏データといった貴重な物をはじめ、ヤマハには大量の演奏データがストックされているそうです。自動演奏という枠内で考えると、それこそCDを次々とかけ変えるようにさまざまなアーティストを集めたリサイタルを開けます。実際問題、グレン・グールドの有名な「ゴルドベルグ変奏曲」の自動演奏データを基にCDが作られ、演奏会が開かれたという前例はあります。確かに生演奏で出てくるその場の臨機応変なアーテュキレーションはありませんが、それでもグールド本人が弾いているということは間違いない訳です。

――あのリヒテルがヤマハのアドバイザーを努めていたというのは知りませんでした。しかしオーディオと自動演奏ピアノのセッションとは、なかなか面白い試みですね。楽器からエレキまでなんでもやっちゃうヤマハらしい挑戦です

麻倉氏:こういったことを含めて「自動演奏のオーディオ化」はかなり新しい可能性があるなと思わせる展開でした。ローランドやコルグも電子楽器事業を持っており、ローランドの発表会では全世界の会場をネットワークでつないでセッションをやったりしていました。IoTを使えばこういった事は確かにできるでしょうが、ここにはオーディオがありません。オーディオとアコースティックな楽器をMIDIで結ぶことで生演奏を再現するといったところが、新しい切り口だなと感じました。


津田塾大学と早稲田大学で音楽論の教鞭を執る麻倉氏は、最先端テクノロジーだけでなく、コード進行を中心とした楽典理論の研究にも熱心。そんな音楽大好き麻倉氏は、どうやらピアノを見ると遊ばずには居られなくなるご様子
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