米国原発事業の損失で危機的な状況が続く東芝。決算発表前には、国内のテレビ事業についても「売却を検討中」という報道が相次いだ(東芝は『決まった事実はない』とコメント)。複数の中国企業などが名乗りを上げたと報じられる中、いち早く社名が出てきたのがトルコのVestel(ベステル)だった。
日本では馴染みのないVestelだが、実はトルコにおける“家電の巨人”だ。創業は1984年と日本の大手家電メーカーに比べれば歴史は浅いものの、1994年にZorluグループ(ゾルル財閥)傘下に入り急成長。現在では家電からモバイル、防衛産業までを手がける29の企業がVestel Groupを構成している。
トルコは1996年のEU関税同盟締結前後から欧州向けの家電輸出を急速に伸ばしており、Vestelはその中心的な存在だ。とくに液晶テレビに関しては、「トルコで生産される液晶テレビの5台に4台がVestel製」(同社サイト)だという。
一方で同社のブランド戦略は独特。トルコ国内やロシア、中東地域では自社ブランドを展開する一方、欧州では現地あるいは日本のメーカーと提携し、そのブランド力を活用する方法で勢力を拡大してきた。例えば2006年には北欧のFinluxやLuxorの商標権を取得。さらにドイツのGraetz、Telefunkenなど。Vestelは世界最大級のOEM/ODMメーカーになっている。
2014年の「IFA Global Conference」でVestelグループCEOのTuran Erdogan氏が公開した欧州における液晶テレビシェア。当時、Vestelは20.3%でSamsungに次ぐ2位、東芝は6.3%で5位だった
そして東芝も、2016年9月に欧州市場における民生用テレビのブランドライセンス供与先を、それまでの台湾Compal ElectronicsからVestel(Vestel Ticaret Anonim Sirketi社)に切り替えた。Vestelは英国を皮切りに東芝ブランドの民生用テレビを欧州で販売する計画だ。
今回の報道からはVestelが東芝のテレビ事業買収に名乗りを上げた目的までは伝わってこないが、仮に他社が買収することになればVestelの計画に支障が出ることは想像に難くない。また既に149カ国に多様な家電製品を輸出しているVestelが、欧州以外の地域で「TOSHIBA」ブランドを使いたいと考えても不思議はないだろう。ほかにも東芝の持つ技術などさまざまな理由が考えられるが、確かにVestelには買収に名乗りを上げるだけの資金と目的がありそうだ。
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