事実、55BZ710Xをぼくの部屋に運び込んでもらっていちばん感心したのは、地デジとBSの放送画質の良さだった。画質モードを室内照度環境や再生コンテンツに合わせて最適画質を提供する「おまかせ」に設定してニュースやドラマ、バラエティ番組などを見てみたが、派手な色合いのゴチャゴチャした背景が目障りなバラエティ番組などもすっきりと描写し、その見通しのよさに驚かされた。この放送画質のよさは、他社の製品をしのぐ本機ならではの魅力だろう。
ぼくたちAVの専門家は、4K大画面テレビを評価するときに、最先端の高画質メディアであるUltra HD Blu-rayを「映画」系映像モードで見たときの画質について言及することが多いわけだが、多くの人にとって、いちばん見る機会が多いであろう地デジの画質がよいということが購入同機の上位にくることは間違いない。その魅力と値段の安さを勘案すると、今もっともコストパフォーマンスの高い大画面4Kテレビは本機ということになるかもしれない。
スキントーンの美しさに目を見張る
部屋を暗くして、「映画プロ」モードでじっくりBlu-ray DiscやUltra HD Blu-rayの映画ソフトも見てみた。今年に入ってからずっとこの部屋で有機ELの東芝「65X910」を見続けてきた目からすると、ローカルディミングを採用しているとはいえ、やはりIPSパネル採用の本機のコントラスト表現は物足りない。黒浮きがどうしても気になるのである。
しかし、考えてみれば映画館の黒と暗部の表現は、有機EL大画面テレビにまったく追いついておらず、APL(平均輝度レベル)の低い場面での本機の見せ方は、映画館並みのコントラスト表現といったと感じなのである。
また、SDRのBlu-ray、HDRのUltra HD Blu-rayともに階調表現については、ダイナミックレンジそのものは狭いけれども、暗部、明部ともにスムーズで、ややぎこちない表現になりがちな有機EL最新テレビに対して見劣りしない。とくに中間調からハイライトにかけてのグラデーションはとても滑らかで、REGZA十数年の研鑽の成果がうかがえる。
それからもう1つ感心させられたのが、スキントーンの美しさだ。ローライトからハイライトまで、ホワイトバランスがていねいに追い込まれていて、肌色が生々しく精妙に描き出されるのである。ぼくの肌色リファレンスソフト、映画Blu-ray Discの「鑑定士と顔のない依頼人」の主演女優のシルヴィア・ホークスをじつに美しく立体的に描写し、目を見張った。
ユーロアーツが撮った4K&SDRという珍しいオペラ作品「フィガロの結婚」で伯爵夫人を歌うアネット・フリッチュの美しさにも陶然となった。イヤリングや胸元のネックレスの輝きなども、HDRコンテンツを観ているかのように輝かしい。AI(人工知能)技術を駆使したHDR復元効果が的確に働いていることが分かる。
下から音が聞こえる違和感が少ない
では、音質はどうか。バズーカの効果を強調するかのような低音過多の音質チューニングかと予想される向きもあるかもしれないが、これがじつに真っ当なエネルギーバランスに整えられていて、まずそこに感心させられた。
メインのフルレンジドライバーとバズーカ・ウーファーとのクロスオーバー周波数は110Hzとかなり低く、声にウーファーがかぶらず明瞭度がきわめて高いのである。そして、アクション映画等のここぞという場面では、腰の座った低音がふっと軽く出てきて聞き応えがある。
もう1つ感心したのは、画面下から音が聞こえてくる違和感が少ないこと。担当エンジニアによると、搭載された「レグザ・サウンドイコライザー・アドバンス」で放射された音響エネルギーを画面前方の四面でスキャニングすると同時に、音響心理的に音像を上へと持ち上げる効果を生み出すエレベーション処理を行うことで、映像と音像の一致を図っているという。アンダースピーカー・タイプのテレビの音はどうあるべきかを熟慮した音質設計の考え方に感心させられた次第だ。
高級テレビにおける有機ELの躍進の裏に、手頃な価格の4K液晶大画面テレビの成熟がいっそう進んでいることを実感させられた55BZ710Xとの出会いだった。
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