過払い請求者は“ブラック”か“ホワイト”か――再燃するグレーゾーン金利問題

» 2007年06月06日 22時08分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 消費者金融の信用情報(債務者の個人情報)を巡って、業界内外が対立の様相を見せている。消費者金融を会員とし全国に33カ所ある情報機関の連合体「全国信用情報センター連合会」(全情連)は9月3日から、債務者の区分に「契約見直し」という項目を設ける予定だ。

 「契約見直し」の対象となるのは、「過払い金返還請求」を求めた債務者だ。2006年1月に最高裁は「グレーゾーン金利は違法」とし、利息制限法(年15%〜20%)より多く支払った債務者には「返還すべし」との判決を下した。これを受け出資法の上限金利(年29.2%)を支払ってきた一部の債務者は、利息分を取り戻すため「過払い金返還請求」の訴えを起こしている。訴えられた消費者金融側は概ね返還に応じており、2007年3月期決算では返済請求の「利息返還費用」と、将来に備えた「引当金」が原因で巨額の赤字に転落した(5月16日の記事参照)

金融庁は静観の構え

 現状では「過払い金返還請求」を訴えた債務者に対し、全情連は元本カット(債務額が減少する整理方法)などをした「債務整理」(登録種類の1つ。いわゆるブラックリスト)での区分で登録している。消費者金融側は債務者の個人情報を調べれば、ブラックリストに登録されていることが分かるため「社内の規定で貸すことはできない」(大手消費者金融関係者)という。別の消費者金融の関係者も「一度でも訴えを起こした人は、契約を履行しなかったことだ。そのため貸すことはできない」と門前払いだ。こうした事実を金融庁も認識しているが、「過払い請求をした人に貸すか貸さないかは、業者の判断に任せている」(金融庁関係者)と静観の構えだ。

全情連に登録されている登録人数。数字は3月末日時点

 今回の「契約見直し」区分の設置は、消費者金融業界からの要望で実現した。過払い請求を起こしたのか、それとも元本カットなどをしたのか、明確にしたいという狙いがある。大手消費者金融の関係者は「過払い請求をした債務者でも、借金の内容によっては貸したい」と話す。つまり返済が滞る恐れがなければ、“優良顧客”として融資をしたいのが本音のようだ。「現段階では各社とも動きを見せていないが、貸付残高が減少している中では、どこかが融資に踏み切るだろう」(同)と予測する(5月30日の記事参照)

弁護士側がやや不利か?

 「契約見直し」の設置に、一部の弁護士からは「反対」の声が挙がっている。「契約見直し」ではなく、「完済」の扱いにするべきだという主張だ。たしかに返還請求者という烙印(らくいん)を押すことは、債務者に不利益を与えることにつながる。また信販系の情報機関では、過払い請求者に対し「完済」扱いとなっている。これに対し全情連の幹部は「どのように情報を扱うかは、各社が判断することだ」と歯切れが悪い。大手消費者金融の幹部も「きちんとした情報でなければ、融資の審査ができない」と説明するが、これも説得力に欠ける。

 「契約見直しに登録するべきではない」という弁護士の意見に対し、全情連の幹部は反論する。「過払い請求をした債務者の多くは、金銭面で苦しいのが現実だ。『完済』扱いを要求することは、『もっと貸せ』と意味するのではないか。これまで弁護士は『貸すな』と言ってきたはずなのに、首尾一貫していない主張だ」と皮肉る。

 業界通の関係者は、新区分をこう見ている。「全情連に『完済』扱いを求めているのは、一部の弁護士だと聞いている。過払い請求をすれば“ブラックリスト”に載るということを、事前に債務者に知らせなかったのではないか。債務者を“ホワイト”扱いにしなければ、過払い請求の手続きをした顧客から説明責任が問われるかもしれない。それを恐れているのではないか」と推測する。

 今回の騒動――弁護士側がやや不利かもしれない。

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