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» 2007年10月25日 08時58分 公開

「撤退するんじゃなかったの?」――米ウォルマートの慎重すぎる西友再建策保田隆明の時事日想

西友を100%子会社化、西友ブランドを続行すると発表した小売業世界最大手の米ウォルマート・ストアーズに対して、驚きの声が上がっている。

[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 ウォルマートが西友の100%子会社化を目指してのTOBを発表した(10月23日の記事参照)。ウォルマートが株式を50%以上取得した後も西友の業績不振が続いていたので、撤退論も囁かれていた中での行為に、少なからず驚きの声が上がった。

撤退するんじゃなかったの?

 もともとウォルマートは、西友の株式を段階的に買い増してきた。最初から大半の株式を取得してしまうと、いざ事業を開始して目論見どおりに行かなくても引き返すに引き返せなくなる。そのリスクを避けるため、ウォルマートは段階的に買い増す権利を持つというスキームを構築した。これには、買い増さないという選択肢を選ぶことで西友から撤退しやすくするという狙いもある。

 今考えると、そのような及び腰の姿勢が西友の業績不振の遠因になっていたのではないかと思うが、撤退論が囁かれていたのには、そういう経緯もあったのだ。

どうやって投資を回収するのか

 追加投資をするからには、ウォルマートが西友から撤退することはしばらくないだろう。むしろ、より本腰を入れて主体的立場で事業収益の回復を目指すものと思われる。しかし、店舗の名称の変更はなく、引き続き西友の名で行くという。

 今、西友に求められているのは、新しいイメージによる顧客の奪回であろう。B2C事業※において、日本に店舗を持っていないのに、日本の消費者にある程度認知されている企業はめったにない。その例外の1つがウォルマートである。西友の名称をウォルマートに変更し、ウォルマート流の商売を行ったほうが、メリットが大きいのではないか。海外在住経験者なら「ウォルマート流の店舗で買い物をしたい」と思う人もいるだろうし、国内で育った人にとっても「海外で大人気のウォルマートで一度は買い物をしてみるか」という気持ちになるだろう。

※B2C/BtoC事業……商取引形態の1つで、企業(Business)と一般消費者(Consumer)の取引のこと。企業間取引ならBtoB、消費者同士の取引ならCtoCとなる

最大の抵抗勢力は日本の小売業界

 もちろん、名称変更だけで業績が回復できるほど甘いものではないだろう。しかし「名称すら変更できなくて、日本の小売業という旧態とした業界で他に何を変更できるのだ」とも思う。名称を変更することで失うものもあるかもしれないが、得るものも必ずあるはずだ。ウォルマートの今までの西友に対する取り組みは、あまりに慎重すぎはしないだろうか。もっと米国企業らしく、ドライに、そしてドラスティックに変革を巻き起こすことを、関係者も買い物客を期待しているのではないかと思う。

 海外の小売業の日本進出に当たっては、カルフールのように失敗する企業もあれば、IKEAのように再上陸して成功する企業もある。成功の方程式は存在しないが、買収の場合は新規出店に比べると必要とされる資金量が圧倒的に大きい。その分、失敗できない立場にあるゆえに、西友に大きな変革を強いることができないのかもしれない。しかし、それでは本末転倒である。

あっぱれな敵対的買収防衛策

 日本は世界有数の消費市場だが、その半面、日本の小売業は卸を含め、外部者が入ってくるには非常にハードルが高く、これが海外プレーヤーが簡単に日本市場で成功していない要因になっている。しかしウォルマートが日本の消費市場に迎合するのではなく、変革させるぐらいのつもりでないと、今回の追加投資も無駄に終わる可能性がある。

 これほどまでに海外からの参入ハードルが高い日本の小売業界は、無意識のうちに敵対的買収防衛策を築き、撤退促進剤を外資系企業に打ち続けてきたことになる。敵対的買収に怯える他の業界の経営者から見ると、なんともうらやましい限りであろう。

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