連載
» 2007年10月29日 01時26分 公開

どれだけ対立しても、EUも米国もロシアを無視できない事情 藤田正美の時事日想

エストニアへのサイバー攻撃、ポーランドの食肉輸入禁止、米国のミサイル防衛基地建設――EUと米国は目下、冷戦後最も対ロ関係が冷え込んでいる。しかしEUも米国もそれぞれに、大きな“武器”を持つロシアを無視することはできない事情があるのだ。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


 1994年に締結された、EUとロシアの「パートナーシップ協力協定」。この協定、有効期限が今年末に切れるというのに、継続するための作業がなかなか進まない。協力協定の改訂作業が進まないのは、このコラムでも以前書いた通り、ロシアとEUの間で、さまざまな問題が噴出しているためだ。

 ポーランドの食肉輸入禁止、そしてエストニアへのサイバー攻撃に対するEU側の反発。さらに米国が、ポーランドやチェコにミサイル防衛基地を建設しようと計画し、それに対してロシアのプーチン大統領が反発していることも、EUとロシアの関係に影を落としている。

米国のミサイル防衛基地は何のため?

 米国は「建設しようとしているのは、ミサイル防衛(MD)のための基地であり、それはロシアからのミサイルを想定したものではなく、イランからのミサイルを防衛するためのもの」と説明している。しかしプーチン大統領はこの説明に納得せず、欧州での軍事バランスが崩れることに強い危機感を抱いている。

 ロシアが強い危機感を持つのも当然かもしれない。ソ連時代には、いわゆる東欧の衛星国がソ連と西側の間にあり、ソ連にとっては“緩衝材”となっていた。それがソ連の崩壊によってイデオロギー的な結びつきをなくしたばかりか、政治的、経済的に西欧と結びつきを強めている。バルト3国やポーランド、ルーマニア、ハンガリーなどがEUに加盟したのが典型だ。さらにこうした国がNATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟に取り込まれていくことになると、ロシアとしては安全保障上、丸裸にされたような気分になるのも無理はあるまい。

 ウクライナの大統領選などで、ロシアが親ロシア勢力に懸命にテコ入れするのも、こうした国まで欧州に取り込まれれば、プーチン大統領が目指す“強いロシアの復活”などは夢のまた夢になってしまうからだ。

欧州のエネルギーの元栓を握るのはロシア

 現在のロシアにとって大きな武器は“エネルギー”である。そして矛先は直接的には欧州に向いている。天然ガスの供給というだけでなく、欧州で電力会社やガス会社に触手を伸ばしているのである。

 2006年初め、ロシアはウクライナに対して天然ガスの供給を止めたことがある。ロシアの価格引き上げ要求をウクライナが蹴ったためだ。ロシアはウクライナへ供給するのを止めたが、結果的にそのパイプラインの先にある欧州への供給も止まった。ロシアはすぐに元栓を開けたが、欧州はロシアが欧州のエネルギーの元栓を握っていることは改めて知った。欧州がロシアを警戒し始めたのはこのとき以来だと言ってもいい。

ミサイル防衛基地はキューバ危機の再来?

 米国やEUとの関係が冷却化していることに苛立ったのか、プーチン大統領は、10月26日にポルトガルのリスボンで開かれたEUとロシアの首脳会議後の記者会見で、米国のMD配備を1962年のキューバ危機になぞらえた。しかしプーチン大統領はこの発言をすぐにやや軌道修正している。米国とロシアの関係は冷戦終了以降進展しており、ブッシュ大統領との個人的な関係も良好であると語ったのだ。

 米国が設置しようとしているMD基地についてプーチン大統領は、「かつてソ連がキューバにミサイル基地を建設しようとしたことに、きわめて似ている。そのときは危機になったが、わが国の国境近くに同じような脅威が設置されようとしていても、我々はこれを危機にはしない。ブッシュ大統領との信頼関係があるからだ。彼が私を友人と呼ぶように、私も彼を友人と呼ぶことができると思う」と語っている。

 ただプーチン大統領が、国内の高い支持率と豊かな歳入、豊富な外貨準備を背景に権力をますます強めつつあることも事実だ。3選を禁止しているロシア憲法を改正してまで現在の職にとどまろうとすることはなさそうだが、首相職に就く可能性については否定していない(ロシアでは大統領が首相を指名する)。以前本コラムでも書いた通り、首相になった後、また大統領に立候補する可能性もある(これは憲法の規定に抵触しない)。そして強いロシアの復活を目指すプーチン大統領は、エネルギー価格をできるだけ高く保とうとするだろう。

 今のロシアとの関係は、冷戦後もっとも冷え込んだ関係になっているとはいえ、米国やEUは、エネルギーという巨大な戦車に乗ったプーチン大統領と、相当長期にわたってやりあわなければならないのである。

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