世界的な課題は「水」、ミュンヘン環境メッセIFAT(前編)松田雅央の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年05月13日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」


 5月5日から9日までの5日間、ドイツ・バイエルン州の新ミュンヘン国際見本市会場で上下水道・廃棄物処理・リサイクリングなど環境産業を広くカバーする世界最大級の専門見本市「IFAT(イーファット)」が開催された。環境大国として知られるドイツ、その中でも世界に先駆け「環境省」を設けたバイエルン州の首都ミュンヘンで開催されるこのIFATは、3年ごとに開催される。初回(1966年)から数えて15回目となる今回は、世界44カ国から2560社の出展があり、世界163カ国の約12万人が会場を訪れた。

 IFATの様子とそこから浮き彫りになるドイツ・ヨーロッパ環境ビジネスの最新動向を紹介する。

新ミュンヘン国際見本市会場の正面入り口(左)、屋内会場(右)

エリア IFATの展示内容
A5、A6、B6 水抽出、配水・下水管、海岸保全、治水(洪水防止)
A1〜A4 上水・下水処理
A4 測定・制御技術
B1、B2 サービス、上水・廃水、ごみ処理、リサイクリング、土壌汚染除去
B5、B6 下水管検査・清掃・保守
B2 廃棄物処理技術、熱利用、大気汚染管理、廃棄物発電
B4、C4 ごみ収集・運搬車、コンテナ、道路清掃、冬期道路サービス
B3、C2、C3 ごみ処理、リサイクリング、廃棄物利用
C1 シンポジウム・ワークショップ
F5、F6 屋外は屋外展示場

世界的な課題は「水」

 IFATで最も大きな展示面積をとった分野は「水」である。廃水処理だけでなく、水源開発・浄水技術・水道供給といった飲料水に関する展示、さらに今回から「海岸保全・治水技術」が独立したカテゴリーとして登場し、水に対する世界的な関心の高さを示していた。

 日本は比較的水に恵まれており、夏の渇水期を除けば水道から水が出ることはごく当たり前。もちろん沖縄から北海道まで地域によって状況は異なるが、市民の関心は水道水の安全とうまさの向上に集まり、生きるためのわずかな水に事欠く国々とは根本的な状況が異なっている。

 2003年に京都を中心に行われた世界水フォーラムの資料によれば、世界中で12億人が飲料水不足に直面し、30億人が衛生的に問題がある水を飲んでいる。計42億人、つまり世界人口の3分の2が飲料水に問題を抱えていることになる(参照リンク)

廃棄物処理の傾向

 もう1つの大きな展示分野「廃棄物」には、収集処理・分別・リサイクル・廃棄物のエネルギー利用などが含まれる。

 日本の状況と比較した場合、まず作業機器の大型化が目に付く。会場が巨大で多数の出展があるため、出展者はインパクトを強めようと自社の製品群から大型のものを展示する傾向にあるようだ。しかしそのこととは別に、作業効率の向上や人件費の節減を目的とした機器の大型化も傾向として感じられた。

大型ゴミ回収車のデモンストレーション(左)、ゴミの一般回収ではゴミを車両後部から投入する方式が一般的。写真のようにゴミコンテナ(ゴミ収集用の容器)を前方から抱え上げる車両は、収集量の多い事業所系のゴミに適している。草刈作業車(右)、この作業車はメルセデス・ベンツの多目的作業車ウニモグ(Unimog)をベースにして3つの草刈機を備えている。道路脇の斜面の草を人手に頼らず連続して刈る場合に活躍する。障害となる道路脇のポール(白色の棒)も問題ない

 会場には各種の特殊車両が展示され、屋外会場ではデモンストレーションも見学できる。ゴミ収集車や路上清掃車、クレーン車、バキュームカーのほか、草刈作業車、除雪車といった作業車の数も多い。

 前回のIFATに比べてこういった車両の性能がケタ違いに向上したり、画期的な機能が実用化されたわけではない。もちろん作業スピードや省エネルギーは3年分進歩しているはずだが、「センセーショナルな変化」はなかったように思う。ただ運転席のデザイン・外観・室内環境には、短期間で大幅の進歩が見られる。運転席の広い窓、エアコンや空気浄化装置の充実など、労働者の作業環境と操作性の向上に取り組む各社の姿勢が伝わってくる。

廃棄物の粉砕機(左)、廃棄物回収コンテナ製造業者のブース(右)、ガラスビンの回収コンテナや各種のゴミ回収コンテナが並ぶ

 加えて、ゴミ回収容器の出展が多いことも日本人には珍しい。ヨーロッパでは家庭のゴミから事業所系のゴミまで大小のコンテナを用いるのが一般的で、当然、それを扱う会社の数も多い。

特殊廃棄物用のドラム缶と袋、それ以上無害化できない特殊廃棄物は、ドラム缶や大型の袋に詰めて、岩塩鉱山跡などに永久埋設される
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