マクドナルドに飲み込まれるカフェ市場?それゆけ!カナモリさん(2/3 ページ)

» 2008年07月11日 12時17分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

6月27日 カロリーメイトVS SOYJOY・大塚製薬の深謀遠慮

 「食べた事がある」「最も好きなバランス栄養食品」の第1位はカロリーメイト、第2位はSOYJOY、第3位が毎日果実。こんな調査結果が発表された。王者カロリーメイトを猛追する新星SOYJOY、さらにその後を追う毎日果実。そんな構図に一見見えるのだが……。

 6月25日に調査結果が発表されたのは、ネットリサーチのディムスドライブによる「 『バランス栄養食品』に関するアンケート」。ネット調査モニター8477人を対象として行われた。

 →好きなバランス栄養食品、男性は「カロリーメイト」女性は「SOYJOY」

 詳しい結果は上記リンク先を参照いただきたいが、回答者中バランス栄養食品を食べた経験のある人が8割近いというのは、食品のカテゴリーとしてかなり浸透してきている証左と言えるだろう。

 しかしそれよりも、今回注目したいのは「あなたが最も好きなバランス栄養食品をお選びください」という設問の結果だ。

 カロリーメイトをはじめ、SOYJOY、毎日果実、BALANCE UP、Power barなどなど、筆者も食べたことのある銘柄がざっと14種並んでいる。その中で、好みの銘柄を1つ選ぶという単一回答方式で、カロリーメイトはダントツの33.2%を獲得。次いでSOYJOYが19.7%、毎日果実が6.9%という結果になっている。

 カロリーメイトは1983年に発売され、「バランス栄養食」というコンセプトを世に広めた。当初は“美味しくないお菓子”というようなとらえ方もされ苦労をしたが、大塚製薬のホームページによると、アスリートの間で広まったのを皮切りに、ダイエットブームに乗り、間食需要や非常食として、徐々に市場を拡大していったという。ダントツの1位はまさに先駆者の栄誉ともいえるだろう。

 しかし、注目すべきはSOYJOY。発売は2006年なので、まだ2年という短さでカロリーメイトを猛追している。CMキャラクターは忙しい男の象徴であり、当時「健康」を語る番組では右に出る者がいない、みのもんたが当初起用された。筆者的にはちょっと苦手であった(失礼)が、同様な意見の人が多かったのか、はたまた、当初のインパクトとコンセプトを伝える役割が終わったのか、現在は第2弾。豊川悦司と田中麗奈コンビが微妙なユーモラスさを醸し出している。斯様に、積極的なメディア戦略によって短期間にトップに猛追し、あっという間に3位以下を抜き去ったことも分かる。

 さて、ここで好みの銘柄として獲得した比率を、利用者のマインドシェアの数字と読み替えて解釈してみよう。ランチェスター戦略(用語)の研究者、B・O・クープマンの提唱した「クープマンの目標値」を援用する。

 カロリーメイト33.2%、SOYJOY19.7%、毎日果実6.9%という数字に近いものでみれば、

数字 シェア 内容
26.1% 市場影響シェア 市場に影響をもたらす、一歩抜け出した状態を示すシェア。2位以下であってもトップを狙えるポジション。トップなら逆転される可能性がある。
19.3% 並列的競争シェア 複数のライバルが拮抗し、安定的な地位をどの企業も獲得できていない状態。
6.8% 市場存在シェア 生活者が人からヒントを出されて思い出せる(助成想起)レベルのシェア。市場において、かろうじて存在が許されるレベル。

 というものが当てはまるだろう。とすると、カロリーメイトは、「市場影響シェア」をだいぶ上回っているが、実際には「不動のトップ」というわけではないともいえる。SOYJOYはほぼ「並列的競争シェア」の数値と同じだ。故に、トップを狙うこともできるだろう。

 毎日果実は第3位とはいえ、実は「市場存在シェア」ギリギリであり、結構苦しい立場であることが分かる。

 だが、ここでメーカーを思い出してみると、カロリーメイトとSOYJOYはどちらも大塚製薬の製品である。とすれば、両者の数字を足しあげてみるとどうだろうか。52.9%。クープマンによると、73.9%に達すれば、「独占的シェア」となり、短期的には首位のポジションを奪われることがあり得ない、絶対的な安定シェアを獲得している状態になるという。ここまでは届いていないが、41.7%の「安定的シェア」は軽く超えている。これは、不測の事態がない限り、競合の逆転や、新規参入によってトップが奪われることがない状態だ。

 さすがは「バランス栄養食」というコンセプトそのものを開発した大塚製薬といえる。そして、この「バランス栄養食」カテゴリーにおける大塚製薬の戦略も見えてくる。

 カロリーメイトは発売から25年。四半世紀を経た「ロングセラー商品」だ。ロングセラーの鉄則である、市場の嗜好の変化に合わせて、関心を引くための適度なバリエーション商品の上市や定期的な告知活動は欠かしていない。一方、食品会社に対してどうしても劣後するチャネルの確保で、独自の自動販売機を設置するなど販路確保も怠りはない。カロリーメイトは着実に金を稼ぐ商品。つまり、「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」でいうところの、「金のなる木(cash cow)」のポジションに厳然と存在しているのだ。

 さらにPPMにおける「金のなる木」の最も重要な役割は、大きな投資をせずに確実に金を稼ぎ、今後育てるべき「問題児(problem child)」に対し、稼いだ金を投入することにある。いわずもがな、「問題児」はSOYJOYである。

 SOYJOYは潤沢な資金の投入を受け、大規模なメディア攻勢やサンプリングなど、様々な施策によって、2年間という短期間で「問題児」から「花形製品(star)」のポジションに見事に成長したのである。ここに大塚製薬の「バランス栄養食」無敵タッグが完成したわけだ。同社の見事な戦略であると言えるだろう。

 しかし、カロリーメイトもSOYJOYもその開発は、平らな道程ではなかったのだ。それについてはまた別の機会に記すことにするが、大塚製薬には‘Otsuka - people creating new products for better health worldwide’という企業理念がある。殊に”creating”の部分には「自らの手で独創的な製品を創る」というこだわりが込められているという。

 「バランス栄養食」というコンセプトを世に送り出し、四半世紀かけてカロリーメイトで不動の地位を築き、後継製品もしっかりと育成する。その盤石の戦略の陰にも、独自のこだわりが込められているのは言うまでもないだろう。

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