第6話 プロジェクトの「死の谷」から脱出せよ!Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(2/3 ページ)

» 2008年10月01日 20時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

 翌々日の夕方、星野の顔を見るなり、誠はすぐさま質問を切り出した。

 あの絵を見て、死の谷という意味は何となく分かりました。僕たちはどうすれば死の谷を克服できますか?

星野 そう急かさないでください。あの絵を理解してもらえたのは嬉しいですが、まだ兆しだと申し上げたと思います。周囲からの不満や欠席者の出現などは典型的な兆候ですが、問題はこれからどこまで悪くなるのかということなのです。あまりにも状況が悪いと、プロジェクトを中断する羽目になるかもしれません。

 そんなに脅かさないでくださいよ、師匠……。きっと大丈夫ですよね?

 必死な目ですがるように見上げる誠に、星野は落ち着いて答えた。

星野 そこまで心配しなくても何とかなりますよ。そのために私たちが付いているんですから。でも今回は、プロジェクトオーナーの東山さんにもお骨折りをいただく必要があります。

 もし必要なら僕からもお願いするので、何でも言ってください。

星野 いや、東山さんには私から直接お願いに上がります。メンバーの所属する部署の部長さんたちに私も一緒に状況を説明して協力を仰ごうと思うのでね。それよりも中村さん、あなたには少しやり方を変えていただかないといけません。

 はい、そうおっしゃると思っていました。僕はどうすればいいんでしょう?

 誠は、自分が今大変な状況に置かれていることは承知しつつも、星野のアドバイスを聞けると思うと内心ホッとしてしまう。

星野 前回の討議で使った調査項目リストを見せてください。これが物議をかもした理由が分かりますか?

 ええ、全部で20項目もあるものを、メンバーに単純に分けたのは失敗でした。だけど、他にうまいやり方があるんでしょうか?

星野 皆さんはこの消費者調査結果を持って、新商品の条件決め、言い換えると“アタリ”をつけたいんですよね? だとしたら、このような個別撃破方式よりも、もっと効率的な方法があります。「パネル分析」はご存じですか? 別名「コンジョイント分析※」ともいいますが。

※コンジョイント分析…商品やサービスの持つ複数の要素について、顧客(ユーザー)がどの要素を重視するのか、また顧客に最も好まれるような要素の組み合わせはどれかを決めるための統計的分析手法。

 昔いた部署で、名前を聞いたことはありますが、中身は全く知りません。ぜひ教えてください。

 興味津々、といった様子の誠を前に、星野はホワイトボードに表を書き始めた。

星野 これから説明するパネル分析の理論はちょっと難しいので、ここではまず考え方を理解してください。

 はい。

星野 調査項目が7つある場合、7つの項目で“あり/なし”の条件を調べるには、全部で何種類の実験をする必要があるでしょうか?

 ええと、7項目×2通りで14種類です。……いや、2の7乗だから、128かな?

星野 どちらも正解ですよ。1つだけ条件を変えて実験するなら14種類、全部の組み合わせを調べるなら、128種類になります。どちらにせよ、全部調べるにはかなりの時間と忍耐力がいるでしょうね。それでは、これが8種類だけで済むとしたらどう思いますか? しかも実際に試作品を作るのではなく、絵を描いて見てもらうだけの調査だとしたら?

 128種類が、たったの8種類の絵ですか? そんなことが本当に可能なんですか?

星野 一例としてこれを見てもらうと、おそらく分かると思いますよ。

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