第6話 プロジェクトの「死の谷」から脱出せよ!Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(3/3 ページ)

» 2008年10月01日 20時00分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]
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 星野は「パネル分析用組み合わせ表」「調査用パネル」という絵を書いた(図)。

左がパネル分析用組み合わせ表、右が調査用パネル(クリックすると拡大)

星野 この組み合せ表は一定のルールで書かれています。横は条件項目を、ここでは7つの項目を入れましたが、縦には評価する8種類の商品案を示しています。各条件項目は2つのレベルから選ぶようになっていて、例えば包装ではビンと紙パックのいずれかになります。それぞれの条件項目をよく見てもらうと分かりますが、8種類の商品案にそれぞれ同じものが4回ずつ出てきます。

 本当だ。でも全く同じ条件を組み合わせた商品案はないんですね。

星野 そこがこの表の特徴なんですよ。この7条件を組み合わせた商品案を絵で描くと、右側の8パターンできます。この絵を調査用パネルまたはコンジョイントカードと呼びます。これらが条件を組み合せた代表的なパターンになるので、消費者に見せて評価してもらうのです。

 ということは、調査するメンバーは8枚の絵だけを用意すればいいわけですね。確かにこれなら準備に手間もお金もかからないかも……。

星野 このパネルを調査対象となる消費者の方々に見てもらって、どれがいいかを1番から8番まで順位を付けてもらいます。ただし、ここからの分析はPCの統計処理ソフトを使って行うことになります。そして、この分析結果から、7つの項目のどの条件がお客様にとってより重要で、その条件のどちらのレベル(例えばビンか、紙パックか)が望ましいかを定量的に判断できるのです。

 ちなみに表の組み合わせは、必ず7条件で8枚のパネルでなくてはダメなんですか?

星野 そんなことはありません。条件数もパネル数もある程度自由に変えられますが、どのように変えれば良いのかは、もっとよく理解してからでないと大変な目にあいますよ。おそらく最初はとっつきにくいし、遠回りだと思うかもしれませんが、結果的に皆さんが得る情報量は個別撃破方式で時間をかけた場合とは比べ物にならないほど充実しているはずです。次回のチーム討議には私も参加するので、皆さんと一緒に調査用パネルを設計して、消費者調査の実行計画を作ってみましょう。

 なんだか、かなり複雑な分析方法だけど話に付いていけるかなあ……。でも山口さんや浜崎さんがいるからうまくハマりそうだな、きっと。そうそう、メンバーには宿題のキャンセルを連絡しておかなきゃ。絶対にひんしゅくを買うけど、これもリーダーの悲しい務めだしなあ。

 不安はあったが、それでも2日前に東山に呼ばれたときの悲壮感と比べればうそのように誠の気持ちは楽になった。誠はあらためてホワイトボードを見上げ、パネル分析の説明をよく読み返したのだった。(第7話に続く)

星野仙八のアドバイス:「プロジェクトの“死の谷”を超えるためには、メンタル面のケアも大切!」

プロジェクト活動が佳境に入ってくると、チームメンバーは作業量が増えることによって予定以上の時間を費やすようになります。また周囲との調整が増えることで、精神的負担も増してきます。

 こうした状況下でリーダーが無頓着に作業分担をしてしまうと、メンバーが疲弊して、著しく士気が低下してしまいます。プロジェクトオーナーやリーダーは、メンバーの時間的負荷とメンタル面のバランスを配慮するとともに、時には上司や外部の力を借りて政治的解決を図ることも必要になります。


眞木 和俊(まき かずとし)

ジェネックスパートナーズ取締役会長。ゼネラル・エレクトリック(GE)で、シックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルト(専従リーダー)として参加後、経営コンサルタントに転身。

2002年11月、お客様とともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から、お客様の成果実現のために企業変革を支援し、事業価値向上に貢献するプロフェッショナルファーム「ジェネックスパートナーズ」を設立。日本企業再生を目指して、企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』『これまでのシックスシグマは忘れなさい』などがあり、中国、韓国、台湾等でも翻訳出版されている。

筆者よりひと言

 「誠」世代が“自立する=自ら考え正しく行動できる”ことが、今後の日本経済を支えるといっても過言ではありません。社会に出たビジネスパーソンとして自立するためのきっかけは誰にでも必ずありますから、そのチャンスに果敢にチャレンジしてほしいと思います。

 しかしその際、気合と根性だけでは徒手空拳も同然。本連載でご紹介するようなビジネスリーダーとしての心構えと基本動作を身に付けておいたほうが無難でしょう。これらは難しく考えるのではなく、実際に試してみることが大切です。

 本連載の主人公・誠は、おっちょこちょいではありますが、好奇心と向上心を持ち合わせたがんばり屋です。誠のように『天は自ら助くるものを助く』の精神でプラス思考で臨んだリーダーこそが、最後にはきっと生き残るのです。


登場人物紹介

  1. 中村誠(主人公、PJリーダー):入社10年目の商品企画室主任。リーダーにアサインされるもどううまく進めていけばいいのか、戸惑いも悩みも尽きない32歳独身。
  2. 東山貞治(PJオーナー):製造部長。温和で若手社員の面倒見がいい上司。誠が水戸工場勤務時代には工場長だったので大変お世話になった。
  3. 小栗順(PJメンバー):購買部員。誠と同期入社だが、昔からそりがあわない。
  4. 仲居貴一(PJメンバー):製造部員。誠の1つ上の先輩で職人肌タイプ。水戸工場時代、彼からモノづくりのイロハをきっちりと指導をされた。
  5. 山口勉(PJメンバー):商品販売部員。誠の4つ下の後輩で、数字に強い。
  6. 浜崎しほ(PJメンバー):広報部市場調査室員。誠の3つ下の後輩で既婚。頭が切れるタイプだが、リーダー初心者の誠を応援してくれている。
  7. 坂口賢二(PJメンバー):飲料開発部員。誠の同期で新入社員時代、同じ部で苦労した経験を共有している。
  8. 小石川登:アイティフーズの3代目社長。アイティ食品グループ本社の役員も兼務する。
  9. 星野仙八(経営コンサルタント):経営コンサルティング会社JNEX(ジェイネックス)のパートナー。アイティ食品グループで進めるI2プロジェクトを主導しているベテランコンサルタント。

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