テレビの質問で困ってしまうこと――リーマン・ショックと主婦の関係山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年10月09日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『エコノミック恋愛術』など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 9月15日に発生した「リーマン・ショック」以来、金融関係の大きなニュースが連日のようにあり、テレビをはじめとするメディアが金融問題を取り上げる回数が増えた。仕事柄、筆者にもコメントやインタビューの依頼が増えている。

 こうした取材や出演依頼で受ける質問で、圧倒的に多いのは「○○は、我々の生活にどのような影響を及ぼしますか?」という問いだ。5つ取材を受けたら、4つはこの質問が中心といっていい。「主婦にも理解できるように、身近な話を分かりやすく話して下さい」という追加指定が加わることも多い。「○○」の部分には、「リーマンの破たん」「株価の大暴落」「AIGの救済」「米国の金融安定化法の否決(可決)」など、ニュースのテーマになり得るものすべてが入る。

 読者もテレビ番組のコメンテーターを頼まれたり、取材を受けたりすることがあれば、「このテーマは、日本の主婦の生活にどう関係するか?」と事前に考えて、多少こじつけが混じっても何か答えを用意しておくと、スムーズに役割をこなせるだろう。有効な「傾向と対策」なので、覚えておいてほしい。

 ところが専門家は、米国の銀行を救済する法案の採否を主婦の生活と結び付けて考える習慣がないので、インタビューでいきなり聞かれると、とまどってしまうことが多い。

テレビでコメントしにくい質問は2つのパターン

 さて、上記の質問に対する答えを事前に考えるとしても、なかなかうまい回答を思いつかずに苦労することがある。手こずる質問について考えてみると、対象の論理構造に2つのパターンがあることが分かった。

 1つめは、AがBとCの大きな原因なのに、BがCの原因であるかのような前提でCについて問われるケースだ。例えば(B)「リーマン・ブラザーズの破たん」は(A)「米国の動産価格下落、不景気、金融不安など」が原因で起こった1つの結果であり、一方、(C)「日本の主婦の生活」に主として影響を与えるのは、BではなくAなのに「リーマンの破たんで、私たちの生活にはどのような影響がありますか?」と質問されるのだ。

 問いの言葉を100%その通りにとらえて考えると、米国の不景気(A)はリーマン・ショック(B)があってもなくてもしばらく続きそうだから、「リーマンがつぶれたこと自体は、私たちの生活にはほとんど影響ありません」と答えてしまうかもしれない。しかしこれでは、虚でも間違いでもないのだが、答えとしていささか気が利かない。テレビならアナウンサーやディレクター(インタビューのVTR取材はディレクターが質問することが多い)が、「これは大きなニュースですし、私たちの生活には小さくても何か影響があるのではないでしょうか」などと言って、別の答えを求めてくる可能性が大きい。

 この種の質問は、質問を言い換えながら答えると比較的うまくいく。

 「全米4位の大手投資銀行であるリーマンが破たんするほど今回の金融不安は深刻ですし、米国の景気は一段と悪いので、日本の企業の業績にも悪影響が出ます。例えば冬のボーナスは悪化するかもしれないし、就職環境も新卒、転職共にこれまでよりも悪くなるでしょう。一方、今後も不動産価格の下落が続きそうで、米国の景気は悪化し、これは世界的に景気のマイナス要因になり、消費や投資は減るので、物価はどちらかと言えば落ち着くでしょう。また、金融と不動産は世界的に深くつながっているので、マンションの価格などは今後下がる可能性が大きい。急いで買う必要はないかもしれません」などと答える。

 これは、厳密には質問の前提をずらしているものの、当たり外れはともかくとして、質問する側の期待に近い内容を答えている。本来なら、質問の内容を修正してから答えたいところだが、テレビではその時間がない場合が多いし、そこまでやらない方がスムーズなことが多い。

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