住宅バブルは再来する? “日本版サブプライムローン”の危険性(後編)著者インタビュー(1/2 ページ)

» 2008年10月22日 08時30分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

石川和男(いしかわ・かずお)氏のプロフィール

 新日本パブリック・アフェアーズ上級執行役員、東京財団研究員、東京女子医科大学教授、専修大学兼任講師。通商産業省・経済産業省で資源エネルギー庁、環境立地局、中小企業庁、産業政策局、商務情報政策局、大臣官房などを経て退官。

 現在は国・自治体向け政策企画・立案アドバイザリーや企業向けコンサルテーションに従事。行政改革論、セーフティネット論などを研究している。著書に『日本版サブプライム危機 住宅ローン破綻から始まる「過重債務」』(ソフトバンク新書)『多重債務者を救え!』(PHP研究所)など。


 終身雇用が保証されて定年まで給料が上がり続ける。そして土地価格も上がり続ける。かつての日本は、この「上がり続ける」というのが当たり前だったが、現在はどうだろうか。年功序列制は崩壊し、土地価格は地域間で大きな格差が生じている。給料と土地価格の上昇が期待できない以上、将来を見すえて住宅ローンを組むことは、より一層の入念さと慎重さが求められる時代になったとも言えるだろう。

 『日本版サブプライム危機 住宅ローン破綻から始まる「過重債務」』の著者・石川和男氏は「労働環境は大きく変化しているのに、住宅ローンの商品設計は基本的に変わっていない。1990年代初頭のバブル経済崩壊前のままで、給料が右肩上がりであることを前提にしていることが問題」と指摘する。

 金融機関による住宅ローンの獲得競争が激化しているが、石川氏はこのような懸念を抱いている。「旧住宅金融公庫が扱っていた『ゆとりローン』のような、当初の金利を低く設定する住宅ローンが出てくるかもしれない。そうなれば安易に住宅ローンを組んでしまった人が、金利が高くなった後の支払いができず、仕方なく家を手放し、さらに借金が増えるという悲劇が多くなるだろう」という。

 こうした悲劇を増やさないようにするには、どのようにすればいいのだろうか。また給料や雇用などの不安がある中で、安心して家を買う方法はあるのだろうか。

 →今、そこにある“日本版サブプライムローン”の危機(前編)

 →住宅ローンの返済が滞ったとき……銀行への対処法は?(中編)

 →住宅バブルは再来する? “日本版サブプライムローン”の危険性(後編)

今の住宅ローンは「時代に合っていない」

 「金融機関は、まず住宅ローンそのものを見直さなければならない。従来の住宅ローンは時代に合わなくなったので、例えば『ノンリコースローン』を取り入れるなど、新たな商品設計を積極的に進めることが必要だ」と石川氏は提案する。ノンリコースローンとはローンの返済ができなくなったときに、担保になっている資産以外に債権の取り立てが及ばないというもの。そのため住宅ローンを借りた人は住宅を手渡せば、預金やクルマなどの財産は手元に残るというわけだ。

 欧米では主流となっているノンリコースローンだが、日本では住宅を担保に取る上、個人保証も求めるリコースローンが一般的。このリコースローンであれば住宅の価値が下がっても、融資額を全額取り立てていいので、金融機関にとってはリスクが小さい。一方、ノンリコースローンは貸し手である金融機関にも大きなリスクが生じるため、貸出姿勢を厳しくせざるを得ない。「金融機関だって損をしたいわけではないので、担保である住宅の評価額いっぱいに融資することもなくなるだろう」。ノンリコースローンを導入すれば甘い審査による融資が減り、その結果、住宅ローンを借りられないという人は増えるかもしれないが、返済が困難になる人たちを未然に防ぐというメリットがあるのだ。「リコース型、ノンリコース型の両方のメニューを用意し、借り手側の選択肢を増やしておくことも重要だ」

 世界経済を揺るがせている米国のサブプライムローン問題の原因は「住宅バブル」。日本もバブル経済で住宅バブルを経験してきたが、果たして2度と起こさないと言えるだろうか。一般的に企業競争によって商品の価格が低下することやサービスが向上することは、消費者に好まれることだが、過剰な住宅ローン競争の場合は疑問符が付く。年収基準が甘くなったり、当初の返済額が低く設定されると、安易な借金を増やすということにつながるかもしれない。

 日本の政策金利※は10月16日現在、年0.50%の超低金利。住宅ローンの金利は政策金利を反映しているので、「もし政策金利が引き下げられたら、住宅ローンの金利も下がるため、再び住宅バブルに突入するかもしれない」と警鐘を鳴らす。

※政策金利:中央銀行が金融機関に貸し出しを行う際に適用される金利のこと。
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