最終話 中村誠32歳、選択の時Webビジネス小説「中村誠32歳・これがメーカー社員の生きる道」(2/4 ページ)

» 2008年11月27日 17時40分 公開
[眞木和俊,Business Media 誠]

 東山は廊下の途中を右に曲がって、そのまま階段を上がっていった。すると廊下の少し先を歩くプロジェクトメンバーの山口勉の後姿が見えたので、誠は足を速めてすぐ追いついた。

 山口さん、お疲れ様。君が分析結果をうまくまとめてくれたおかげで、報告資料がとても分かりやすくなったよ。

山口 こちらこそいろいろと勉強させてもらいました。それに中村リーダーの“ネバーギブアップ”精神は、よく見習おうと思いました。

 見習うって、何を?

山口 何でも簡単には諦めず、粘り強くこなすところです。だって最初の頃、あれほど仲が悪かった小栗さんともいつの間にか和解してるし、数字が苦手だったのに、今や分析慣れしてますし。素直に尊敬しちゃいますよ。

 そんなものかなあ。

山口 一生懸命な中村リーダーを見ると、みんなが手助けしたくなるのかもしれませんね。

 山口と話しているうちに社員食堂に着いた誠に、今度は商品企画室の上司である藤木一郎が声をかけてきた。

藤木 先ほどの報告会では、リーダーとしての君の成長ぶりを見せてもらったよ。それに一緒に活動しているメンバーたちともうまくやっているようだね。

 なんとかリーダーを解任されずに終われそうです。これも最初に室長から“いきなり大きく背伸びをしないように”とのアドバイスをいただいたおかげだと思います。

藤木 私でも少しは役に立てたなら幸いだな。ところで中村君……、

 ここで言葉を切った藤木は、周囲を見回してから声を潜めて話した。

藤木 実はこんな場所で何なんだが、次の人事異動で係長昇格候補者に君の名前も挙がっているんだ。今回のプロジェクトの貢献ぶりが評価されたようで、ほぼ内定のはずだ。

 えー、本当ですか? 教えてくださってありがとうございます。でも、そうなると先ほど社長が話していた依頼事項は、どうなるんでしょうか?

藤木 私もそれが気になっていてね。経営トップの発言だから、何か理由があるはずだ。後で社長が現れたら、それとなく聞き出しておくよ。

 よろしくお願いします。室長、ちょっと失礼します。

 星野の後について社員食堂に入ってきた橋下悟を見つけた誠は、彼のそばに近寄ってそっと声をかけた。

 橋下さん、ちょっとご相談したいことがあるんですけど。

橋下 星野じゃなく僕に、ですか? もちろん喜んで。

 懇親会に集まってきた人だかりから離れ、食堂の壁際に来たところで、誠はおもむろに口を開いた。

 このことは橋下さんと僕の間だけの話にしておいていただきたいのです。社内の誰にも相談できそうもないことなので。

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