“オレのカッコいい”を語れるデザイン経営郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2008年12月11日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 まずはこのクルマを見てほしい。チューニングカーの「IDING F460GT」、ベース車両は2004年にデビューしたフェラーリF430だ。

チューニングカーの「IDING F460GT」(林田氏提供)

 マニアならずとも、この洗練されたスタイリングにはため息が出る。オリジナルでは2つあるフロントのエアインテーク※。あえて1つにして“フェラーリらしさ”を追求、そして12点にのぼるエアロダイナミック・ボディキット※※がスポーツドライビング魂をかき立てる。

※エアインテーク……エンジンの吸気や各部の冷却のために設けている空気取り入れ口
※※エアロダイナミック・ボディキット……空気抵抗を減らすためのパーツ

 走りの真骨頂は“腰下”にある。エンジンの腰から下には、新設計のクランクシャフト、チタンコンロッドが収まる。「エンジンレスポンスはシャフトが命」という開発者の熱い思いが込められている。

 車体の下半分のエキゾーストマニホールド、サスペンション、ブレーキもオリジナル開発。マグネシウム鍛造ワンピース・ホイールもフェラーリ専用の開発だ。重量は純正が12.9キログラム、IDING F460GTの開発品では9.3キログラム。

(林田氏提供)

 F460GTには開発者たちの10年越しの夢が詰まっている。自動車業界で伝説のチューニング会社と言われるIDING POWERの井手新勝社長の夢、そして外部コンサルタントとしてF460GTのデザインとマーケティングに携わるデザインコンサルタントの林田浩一さんの夢。2人とも大量生産では味わえないクルマデザインを追いかけてきた。

 私もコンサルタントだが、林田さんと同じく仕事の軸をデザインにシフトしている。それは「ビジネスの起点は今やデザインにあり」という思いから。経営とデザインの融合は大きなテーマだと感じている。今回は林田さんのデザイン観、コンサルタント業の活躍から、経営とデザインの関係を見ていきたい。

繰り返しのモノ作りにはワクワクがない

 もともとモノ作りが好きだった林田さん、1980年代後半に京都工芸繊維大学を卒業し、大手自動車メーカーのデザイン部に造形デザイナーとして入社する。

 自動車会社のデザイン部といえば花形部署、そこでは主にワンボックスカーの内装を手がけた。その仕事でのデザイン部担当者の役割は、スケッチでのプレゼンから量産開始まで、一貫して携わるというものだった。

 コンセプトを元にまず粘土でモデルを作り、CAD※で粘土のモデルを3次元デジタルデータに変換。設計部門とともに製品計画を行い、製造部門と生産工程計画、そして部品メーカーと部品開発。テスト、品質管理、そして量産開始まで4〜5年のサイクルだ。

※CAD……「Computer Aided Design」の略。工業製品などの設計に、コンピュータを用いること。

 林田さんはその2周目、つまり2車種目の開発で「繰り返しはもういい」と思うようになった。次に何をするか見えてしまうからだ。加えて創造性を加えられる余地も少ないのだという。

 「自動車は1点(こだわる)ポイントを決めると、全部(のデザインが)決まるんです」

 そう言うと、林田さんはホワイトボードに自動車の断面図をスラスラと描いた。エンジンと車軸はデザイン前に決まる。車体フレームにも決まり事がある。その前提条件を踏まえた上で、お尻つまり骨盤の位置を決める。すると人間工学的にシートも屋根もフロントガラスの位置も決まる。スタイリング上のシルエットはあらかた固定されてしまう。

 個性化を図ろうとしても別のハードルがある。「ゆったりとしたシートを入れて他車と差別化しよう」と提案すると、営業から「フルリクライニングは絶対なくすな」と注文が入ってくる。すると、大きなシートではリクライニングができないので断念せざるを得ない。こうして無難なクルマが完成する。

 「これが本当のデザインだろうか?」

 小林さんは不満がつのった。仕事の守備範囲がスタイリング部分にとどまることに満足できず、お客さまが喜ぶモノ作り、ニーズを製品化できる上流の仕事をやろうと考えてメーカーを退職した。1990年代後半のことだ。

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