松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」
ドイツ南部のウルム市に、世界最大のエコオフィス「エナゴンビル」がある。
ウルム市といえば、著名な物理学者アルバート・アインシュタインが生まれたところ。そんな土地柄もあるのだろうか、ここには医科理工系のウルム大学をはじめ企業の研究機関が多く立地し一大ハイテク集積地になっている。特に、ウルム大学に隣接するサイエンスパークにはドイツテレコム(通信)、シーメンス(電機・エレクトロニクス)、ノキア、ボンバルディア(航空・鉄道)、メルセデスといった世界的企業の研究施設(約30)が軒を並べ、就労者はおよそ2500人に達する。サイエンスパークはウルム市のPEG(ウルム・プロジェクト開発公社)が中心となり、1億ユーロ以上(約123億円、1ユーロ123円)を投資して20ヘクタールの公有地に第1期(1990年)、第2期(1997年)と開発が進められてきた。
サイエンスパークの一角に建つ、ひときわ目立つのがエナゴンビル(2002年建設)だ。
このエナゴンビルはダルムシュタット市に本部のあるソフトウェアAG財団が究極のエコを追求しパイロットプロジェクトとして建設した賃貸のエコオフィスビルだ(オフィス面積8000平方メートル)。
まず、エナゴンビルには可能な限りの省エネ対策が施されている。低エネルギー(省エネルギー)建築の基本として断熱効率が高められ、窓を大きくとって太陽エネルギーを最大限活用するのが基本。さらにはキッチンの廃熱、事務機器や人の発する熱まで熱交換の空調機器で無駄なく回収し地熱も利用するなど、ほとんど暖房エネルギーを必要としない「パッシブハウス」(高性能な省エネルギーの建物)になっており、オフィスビルとしては世界最大であるという。
特に、エナゴンビルでは深さ100メートルのゾンデ(熱交換用の井戸)を40本掘り、地熱(年間を通して10度)を冷暖房に利用している。夏は地温が外気より低いから冷房に、冬は地温が外気より高いから暖房の熱源に使う仕組みだ。通常のオフィスビルに比較すると冷暖房エネルギーは4分の1。年間175トンのCO2削減効果がある。
また、外窓を開けると熱のロスになるため窓は極力閉めたままにする。その分、通常の建物より空調性能を高め、窓を閉めたままでも室内環境に問題がないよう配慮されている。外気は高性能のフィルターを通し、熱交換した上、湿度と温度を調整して各部屋に送られるので、花粉症の人も症状が楽になるそうだ。
ほかにも、屋上に実験段階にあるシート型の太陽電池を敷き、建物脇に雨水浸透用の池を設置するといった積極的なエコロジー対策をとっている。
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