「天下り」に「渡り」……いろいろあるけど、官僚問題の“急所”はココ山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年02月05日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


国会でも議論されている天下り問題

 公務員の人事制度が揺れている。「天下り」(官庁から民間への再就職)を禁止するかどうか、天下りや「渡り」(民間から民間への再就職)の官庁による斡旋を禁止するかどうか、幹部人事を内閣府に集約するかどうかなど、いくつかの争点があるが、政府・与党の態度がすっきりしない。手続きも大事だが、それ以前に、公務員の人事制度をどうするのがいいかという基本的な考え方がはっきりしない点が物足りない。

 そもそも公務員に再就職の斡旋があることが奇妙だが(ハローワークに行けばいいのに!)、制度を廃止しても水面下での就職紹介はなくならないだろうから、この点にこだわることに価値があるとは思えない。天下りの可否こそが根本的な問題だし、管理職のポストが不足していてコストにもシビアなはずの民間会社が、なぜこれを受け入れるのかという点をよく考える必要がある。

人事制度こそが官僚問題の急所

 筆者は公務員になったことはないが、かつて公務員の人事制度について文章を書いたことがある。1994年に東洋経済新報社の高橋亀吉記念賞という懸賞論文に「官僚を逃がさない官僚制度改革」という論文を書いた(ありがたいことに優秀賞をいただいた)。

 この論文では、官僚制度の問題をエージェンシー問題(国民が依頼主、官僚が代理人となる構造に付随する問題)だと位置付けて、キャリア官僚に成果に応じた報酬(かなりの高収入も含む)を払う代わりに、クビもありということにして、官僚の在任期間と同期間の天下りを禁じる、という組み合わせを提案した。選評では分析の枠組みをほめられたが、官僚の人事制度を詳しく論じたことは、問題の矮小(わいしょう)化だとあまり評判が良くなかった。しかしその後の展開を考えると、人事制度こそが官僚問題の急所だという筆者の考えは変わらない。

 今、改めて考えると、クビは「あり」にしなければならないと思うし、優秀な官僚の報酬はかなり高くても構わないと思うが、「天下り禁止」は少し微妙だ。

 人材の入れ替えの可能性、端的にいって「クビ」の可能性は必要だと思う。行政組織にも時には「CHANGE」が必要だし、そのためには人材に流動性がなければならない。

 官僚はいったん就職すると、基本的に同じメンバーが上下関係も含めてずっと維持される。利益集団としてみると、これは強力で、官僚は自分たちの長期的な利益のために結束できるが、会社が傾くと職を失う民間人、あるいは選挙に落ちるとただの人になる政治家などは、集団として長期的な利益のために結束することが難しい。長期的な駆け引きにあって、利益集団としての官僚には有力な対抗勢力がない。

 一方、国の運営にあたって影響の大きな重職なのだから、終身雇用を剥奪する代わりに、優秀な人材にはそれなりの報酬が必要だろう。優れた官僚の仕事には、高給を払う価値があると思う。その代わり、人事評価や報酬は国民に完全に公開されるべきだ。

 官僚の仕事ぶりを評価する人は誰? 正当な評価ができるか? 仲間内の「お手盛り」にならないか? という問題もある。しかし金銭的なコストは高く見えても、優秀な仕事と清潔さ(民間と癒着しないこと)をお金で買えるのだとすれば、こうしたやり方は制度の組み合わ方の1つとしてあり得るのではないか。

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