政府が、製造業に“手”を差し伸べるのは「正しい」のか?藤田正美の時事日想

» 2009年02月23日 11時41分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 2008年10〜12月期のGDP(国内総生産)成長率は衝撃的だった。年率換算でマイナス12.7%、石油ショック以来最悪の数字。「日本はハチに刺された程度」といっていた与謝野経済財政担当相も、「戦後最大の経済危機」と言い直したほどである。

 新聞を見ていても良いニュースはほとんど見当たらない。ただ先日、中国向けの海上運賃が上昇しているという記事を見た。昨年末にかけて暴落していた運賃が再び上昇を始めたというのである。中国の4兆元にのぼる景気対策が効いてきたということだろうか。

2008年10〜12月期の実質GDPと名目GDPの成長率(出典:内閣府)

日本のリスクは「政治」

 それにしてもこの日本の落ち込みぶりは半端ではない。しかも2009年の第1四半期も、年率でふた桁のマイナスになるというから、ますます容易ならざる事態である。そんな状況に押しつぶされそうになったのかどうかは知らないが、中川昭一財務・金融担当相はG7の記者会見に「酩酊状態」(本人は風邪薬の飲み過ぎと釈明)で現れ、もうろう会見を行った。英エコノミスト誌にも「中川大臣の行動は日本の政治と経済の状況を示すものだ」と強烈に皮肉られている。

 日本の最も大きいリスクは「政治」であると思う。この日本の危機的状況をきちんと認識することができず、公明党に押し切られての定額給付金が示すように、2兆円をどう生かすのかという説明がきちんとできない(自民党が納得しきっていないから、受け取るとか受け取らないとか、さもしいとかいう発言が出てしまう)。挙げ句の果てに、小泉元総理に定額給付金を衆議院で再議決するというのなら、その本会議は欠席すると「反乱」を明言されてしまう始末。これでは本格的な景気対策などできっこない。米国のオバマ大統領を見ても分かるように、巨額の財政出動は将来への禍根も大きいため、議会を説得するのは容易ではないからだ。その意味では、将来に対するビジョンが明確でない麻生内閣が権力の座についていることのリスクは計りしれないほど大きい。

製造業の危機にどう対応するべきなのか?

 それにしても製造業の危機にどう対応すべきなのか。すでに米国ではGMとクライスラーに対するつなぎ融資が実行されたが、両社はさらに援助を求めて再建計画を提出した。しかしこういった製造企業を本当に救済すべきなのかどうか。これは大きな疑問である。

 英エコノミスト誌は、「製造業の崩壊」と題する記事でこう書いている。

 政府が産業に対して特別の支援をすることは、正しいのか。その答えはノーである。痛みの伴わない選択はない。しかし産業を支援することには2つの大きな欠陥がある。1つは政府が支援する場合、日々変化する世界の製造業についていけない可能性があること。例えば現在の1つの問題は、貿易金融がつかないことなのだが、その状態がいつまで続くのかは誰にも分からない。

 もう1つの欠陥は、ある特定の産業を支援しても、根本的な問題を解決することにはならないことだ。その根本的な問題とは、需要の落ち込みである。生産能力が多すぎる産業もあるから、政府が援助しようがしまいが、いずれにしてもその産業では工場を閉鎖しなければならない。政府はどの会社を助けるべきか、産業の適正規模はどれぐらいかなど、判断することができるのだろうか。それにそうした支援をすれば、世界的に保護主義を誘発することにもつながりかねない。そして本来であれば、資源の再配分によって産業構造の変化があるはずなのに、政府支援によって非効率的な産業に資源が固定化されるということにもなる。

 それではなぜ金融は救うのか、という議論があるが、それは銀行を救っているのではなく、すべての企業に資金を流すために銀行を救っているのである。製造業を救うために政府は何をなすべきか。それは資金が流れるようにすることと、支出を増やす(需要を創り出す)ことしかない。

 エコノミスト誌は明解だが、産業を救わないというのは政治的には非常に難しい決断になる。オバマ政権がGMとクライスラーに対して何を行うのか、そこはこの春までの大きな注目点だ。

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