16連射、ゲームは1日1時間の裏側――高橋利幸氏、ファミコンブームを振り返る(後編)(4/5 ページ)

» 2009年03月13日 17時40分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

小学生はゲームより先に、基礎体力や基礎の知恵を付けた方がいい

 日本デジタルゲーム学会の公開講座ということで、現役のゲームクリエイターやテレビディレクターも多く聴衆として参加していた。講演後の質疑応答では、ファミコンブーム当時のことから現在のゲーム業界のことまで活発な意見交換が行われた。

――イベントなどで忙しい生活を送っていて、体力は持ちましたか? どこかで倒れたり、連射力が落ちてしまったりということはありましたか?

高橋 連射力は落ちましたね。全然練習できませんでしたから。ただ、当時ハドソンは9時出社だったのですが、10時までは予定を入れないようにしてもらいました。その9時〜10時にゲームに触れる時間を作っていました。

 一番忙しい時には9時に会社に行くと、10時くらいから取材が入ります。30分に1本のペースで16時くらいまでです。それから企画書とかをまとめて、18時くらいに小学館に行って、「コロコロコミック」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」「小学五年生」「小学六年生」「スピリッツ」「サンデー」と打ち合わせをして、終わるのが次の日の1時くらいです。コロコロ(編集部)に戻ると、担当さんが「(飲みに)行く?」と言うので、「行っちゃおうか」ということで飲みに行って飲み終わるのが7時くらいです。出版社の方はお昼過ぎに出社すればいいので、朝早くまで飲んでるんですよ。7時まで飲んで、家に帰って、シャワー浴びて、そのまま出社というのが3日くらい続いたことがありました。

 また、僕の睡眠時間が1日2時間という時が3カ月間続いた時があったんですね。「もう許してくれ」ということで3日間休みをもらったのです。3日間休みをもらったので、「明日はお昼ぐらいに起きてディズニーランドに行って、明後日は映画行って」とスケジュールを組んだのです。その日は21時に家に帰って布団に寝転がって、まばたきをしたんです。目をつぶったわけではないので、寝たわけではありません。まばたきしてパチっと目を開けた瞬間、猛烈にトイレに行きたいんです。横になるまではトイレ一切行きたくなかったのにです。トイレ行くと横にドアがあって、そこを何気なく見ると新聞が入っているんです。外を見たら暗い、まばたきの瞬間に24時間経ってたんです。「時間を返せ」と思いました。

 「じゃあ、予定を変えないといけない」と思ったのですが、もう21時で何もできないのでもう一度寝ました。そして、起きたらまた(翌日の)21時だったのです。それで2日間なくなって、「3日目はさすがにそれはないだろう」と思ったら、21時ではなかったのですが18時でした。「もう何もできないから、飲ませてもらおう」と思って、コロコロに行って「すいません、こうこうこういう話で、2日半棒に振っちゃったんです。全然記憶にないんです」と言ったら、「そうか、それはつまんないね。よし、今日は騒ごう」ということで歌舞伎町に行って8時まで騒いだ。シャワーを浴びて会社に行ったのですが、単なる酔っ払いでした。会社のみんなに「お前、3日間何やってたんだ」と言われましたね。そんな生活をしていても体を壊さなかったのは、子どもの時に基礎体力が付いていたからだと思います。

――ゲームは1日1時間やるだけで楽しめるものなのでしょうか?

高橋 答えづらい質問なのですが、ぶっちゃけて言うと2〜3時間やらないと楽しめないと思います。「ゲームは1日1時間」というのは子ども向きの話で、大人はどうでもいいんです。自分で管理できるでしょうから。24時間家にこもってゲームしても、それは自己責任ですから。

 私が子どもたちに向かって「ゲームは1日1時間」と言ったのは、「1時間でかっちりやめなさい」ということではなく、「みんながこれから覚えなきゃいけない遊びはもっといっぱいあるのに、テレビゲームしか遊んでなくていいの?」という点が重要なんです。例えば小学生だと、かくれんぼや鬼ごっことかいう遊びがあるわけです。

 ファミコンが出るまで、テレビはこっちが見るだけの媒体でした。それがテレビゲームをつなぐと、中のキャラクターを自分で操作できるんですね。「これが本当にヒットしたら、子どもたちが外に行かなくなる」と思ってしまった。子どもたちが成長する過程で、鬼ごっこで外を走ったり、かくれんぼでどこかに隠れたりと、いろんな遊びで知恵を付けてほしいのですが、そういう時期にテレビゲームだけというのは良くないと思うのです。例えば20歳になった時に「君の小学生時代はどうだった?」と尋ねられて、「スーパーマリオ!」「ボンバーマン!」だとやはり寂しいわけです。そういうことも含めての「ゲームは1日1時間」なので、自分で管理ができるのなら2時間でもいいと思います。

 小学生はゲームより先に、基礎体力や基礎の知恵を付けた方がいいと思います。先ほど「釧路か根室からお母さんがクルマを運転して子どもをキャラバンに連れてこられた」という話をしましたが、そのお母さんは子どもに100本ぐらいのゲームカセットを買い与えていたんですね。「ゲームをすることでプログラマーの仕事に興味を持ってくれればいいなと思って」ということでした。その時私は「ゲームをやっていても、プログラマーになれるかどうかは分からない。そんなにお金があるのなら、パソコンを買ってあげたほうがいいんじゃないか」と話しました。ゲームをやってプログラムに興味を持たせるという道筋もありますが、まずはプログラムをちょっと触ってもらって、ドットが動く楽しみなどからプログラムに興味を持ってもらった方がいいのではないかと私は思うのです。「何か頑張れば面白いことができそうだなあ」という部分をくすぐってやることが大事だと思います。

――「ゲームは1日1時間」と言って問題になりながらも、最終的にはそれがハドソンの方針になったということですが、なぜそういう流れになったのですか?

高橋 ファミコンソフトの販売本数が『ロードランナー』が100万本以上、『ナッツ&ミルク』が40万本、『バンゲリングベイ』が50〜60万本、『チャンピオンシップロードランナー』が40万本、『スターフォース』が80〜90万本でした。経営者としては「この売り上げがずっと続いてくれるといい」と思いますよね。ずっと続いてもらうためには、このファミコンというブームが一過性だと困ってしまうわけです。「ブームをどうやって長続きさせようか」と考えると、「ゲームが健全なものだよ」と世間に認めさせることが大事だと思うのです。私は博多でイベントをしていて、役員会にいなかったので推測でしかないのですが、そういうことだと思います。

――ゲーム業界全体でもそういう風潮だったのでしょうか?

高橋 (「ゲームは1日1時間」発言の後ですが)パソコンゲームでピンク系に走りはじめたメーカーさんがいまして、1986年に国会で問題になったんです※。その会社は国会で取り上げられた次の月には方針転換して健全な方に戻ったのですが、国会で取り上げられてしまうような内容はまずいとみんな思ってたのではないでしょうか。

※問題となったのはデービーソフトのマカダミアソフトブランドから発売された『177』。1986年10月21日の衆議院第107回国会決算委員会で草川昭三氏が有害ソフトとして取り上げた。

 少なくともハドソンは、ゲーム草創期から健全性を意識していました。だからハドソンでは「人が人を殺す」というゲームはないんです。『高橋名人の冒険島』のパッケージで悪役が胸の大きな水着姿の女性を抱えて誘拐しようとしている絵を使おうしたのですが、それを社長が見て「これはお母さんから、いやらしいと思われるのではないか」ということでリボンを付けて隠しました。「これぐらい大丈夫でしょう」とみんな言っていたのですが、「絶対ダメだ」と。だからハドソンは相当気を遣ってましたね。全社的にと言われると分かりませんが、そういうゲームは少なかったと思うので、やはりみんなある程度は健全性を考えていたとは思います。

――お話を聴いていて、ハドソンという会社の空気の熱さが印象深かったのですが、具体的にどのように物事を決めていったのでしょうか?

高橋 「会議室で決めた話は成功しない。飲み屋で決めた話は成功する」というのがありました。キャラバンも小学館さんとの企画もそうです。遊んでいる雰囲気の中で、ざっくばらんに言っている意見をみんなが聞けるような姿勢でないと、面白いことというのは発展的にならないと思います。会議室でいくら頭の中で知恵を絞ったところで、それはひねった意見なんですよ。それに会議室だと、(本来)ポシャる意見を何とか持ち上げようという人もいますからね。

 みんなが遊んでいるような雰囲気の中で決めるのが一番だと私は思いますし、当時のハドソンはそうだったと思います。ただ、それを第三者的に見ている人がいて、時々はブレーキかけてくれないと大変なことになります。実際うちもそうなりました。この間やっと赤字が消えましたが、大変だったんですよ、赤字を返すのは。

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