DSで生活が便利になる――任天堂・岩田聡社長と宮本茂専務、ゲーム機の現在と未来を語る(4/6 ページ)

» 2009年04月10日 13時10分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

「どうすればウィッシュリストの1番にしてもらえるか」が大事

 質疑応答では金融不況の影響や、携帯電話との競争、生活にDSを取り入れる上での問題点などについての質問が投げかけられた。

――任天堂のビジネスは景気後退の影響をあまり受けていないようですが、景気の影響を受け始めた時、どんな対策を行うのでしょうか? 値下げはされるのでしょうか?

岩田 リセッション(景気後退)の時に、ウィッシュ(欲しいもの)リストの1番にあるものと、ウィッシュリストの3番、5番、10番にあるものは影響の受け方が全然違うと思います。任天堂が幸いにして世界の経済環境の変化をあまり受けずに来ているのは、「DSやWiiをウィッシュリストの1番として『欲しい』と言っていただけるお客さまの数が多かったからだ」と私は思っています。

 我々の作っているものが他社の作っているものとほとんど変わらないもので、「どっちが安いか」で勝負をしているのであれば、値下げをすることによって需要を大きく喚起することができるでしょうが、「ビデオゲームというのはそういうプロダクトではない」と私は信じています。

 もちろん、未来永劫禁じ手にする気はありませんが、今そのこと(値下げ)が有効な方法だとは思っていません。それよりも、(DSやWiiが)ウィッシュリストの3番や5番では後回しになるので、「どうやったらウィッシュリストの1番にしてもらえるか」を追求したいと思います。

Wii

――日本でのWiiの売り上げは落ちているようですが、DSiで実現したようなブーム再燃は可能でしょうか?

岩田 今、日本でWiiの元気がないことは事実です。Wiiを発売して以来、今が一番日本では不健全な状態になってしまいました。800万台近く売れているゲーム機のマーケットとして、そして発売から2年強という段階でこういう状況であることは、決して我々の望むところではありません。

 Wiiに関しては「比較的少数のパワフルなソフト群が長い間売れ続けて、それによって本体の勢いが維持される」というモデルで世界中を(売れて)回ってきたのですが、2008年年末のソフト群は我々の期待通りのロングセラーになりませんでした。そして、そもそも海外と日本のマーケットでは、情報の伝わるスピードとものが飽きられるスピードが違います。「そのことが日本と海外の勢いの差を生んでいる」と私は理解しています。

 先ほど宮本がお話した6月の『Wii Sports Resort』(発売)以降、またいろいろ新しい提案とともにソフトが出ていくので、「その時にWiiの勢いを再び盛り返していく」ということが私たちが今考えていることです。DSでできたのですから、Wiiでもできると信じて頑張ります。

――PS3やXboxをライバルだと思っていらっしゃいますか? また、「米国と欧州の市場は大きなポテンシャルを持っている」とおっしゃいましたが、アジアの市場はどうでしょうか?

岩田 ほかのゲーム機(PS3やXboxなど)も「ゲーム機」と呼ばれ、任天堂のゲーム機も「ゲーム機」と呼ばれ、売り上げは毎週比較されるわけですから、その意味ではライバルです。しかし、「彼らとの競争に勝ったら、任天堂はゲーム人口を増やせるのか」というとそうではありません。我々は「任天堂が新しい提案をすることでゲームを遊ぶ人が増え、その人たちが継続的にビデオゲームを楽しんでくれるようになる」ということを目標にしているので、(PS3やXboxを)ライバルと外の人は言いますが、我々はあまりそう思っていません。むしろ、「無関心なお客さんがどうしたらこっちを向いてくれるのかな」ということの方がずっと我々にとって重大な関心事ではあります。

 アジアのマーケットには、もちろん大きなポテンシャルがこれからあると思います。もし、経済状況がこうならなかったら、アジアの国々の経済発展はもっと順調だったはずで、そうであれば「今年は非常に重要な年だったんだろうな」と思います。

 先ほど、「景気よりも、ウィッシュリストの1番かどうか(が大事)だ」と申し上げましたが、それはある程度1人あたりの所得が多いから言えることです。さすがに発展途上の国には同じことは当てはまりませんから、「経済状況が良い追い風の時でないと新しいプロダクト、今まで生活の習慣になかったものを受け入れていただくことは、それだけハードルが高くなる」と思います。ですから、「アジアの勝負のタイミングは、ほんの少しだけ後ろにずれたかな」と思いますが、それでも重要なポイントとしてしっかりやっていきたいと思っています。

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