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» 2009年04月17日 15時30分 UPDATE

「映画は熱意で大きくなっていくもの」――滝田洋二郎監督、『おくりびと』を語る (2/3)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

人類共通の感情をテーマにしたから海外でも共感された

 まだ『おくりびと』が公開されていない国も多いとあって、日本外国特派員協会での会見だったが日本人記者の姿が目立った。質疑応答ではアカデミー賞受賞の反響、滝田監督の死生観などについての質問が投げかけられた。

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――アカデミー賞授賞式で「We will be back」とおっしゃいましたが、再び戻るためにどのような計画を立てていらっしゃいますか?

滝田 この受賞で思ったことは「自分の思ったことをやればいいんだ。どんな場所で撮るとか、周りに振り回されるとかではなくて、自分がちゃんと信じたものをやればいいんだ」ということです。これからどんな映画を撮るか分かりませんが、(アカデミー賞受賞は)映画に夢中になれるという動機を強く与えてくれました。いろんな信じる映画を撮って、「もうアカデミーは2度とないだろう」と(表向きは)言いながら、心の中では「必ず(再び授賞式の舞台に)立つぞ」という気持ちを持っていたいと思います。

――アカデミー賞受賞の前後で日本の観客に変化はありましたか?

滝田 オスカーをいただいた後、(観客数が)それまでの数字の倍の数字になりました。つまり「オスカー効果というものが確実にあったのではないか」と思いますが、僕としては大変うれしいことであります。「自分の映画を少しでもたくさんの方に見ていただいな」と思ってはいますが、逆に「オスカーがなければ、それまでなんだ」ということもまたあると思います。

 現在、60億円の興行収入があがっています。これは日本映画の中でも相当な大ヒットの部類に入ると思います。しかし、僕が言うとちょっと誤解を招くのですが、例えば、「オスカーをいただいたことが社会現象である」とか「(『おくりびと』は)国民的映画だ」と(メディアが)おっしゃるのであれば、客観的に見ると「60億円でいいんですか?」ということではないでしょうか。つまり、「いかに若い方が見に来ていないか」(ということです)。「(なぜ)若い方までひっくるめた映画になっていないのか」「若い人はなぜ映画を見ないのか」と言っていただく方は誰かいらっしゃらないでしょうか?

ah_gaiposu.jpg 英語でのポスター

――これまで世界に受けていた日本映画にはサムライ映画が多かったと思います。『おくりびと』はサムライ映画ではありませんが、なぜ世界に受け入れられたと思いますか?

滝田 「この映画は極めて日本的な映画だ」と自分でも思います。「現代の映画だ」とも思います。それがなぜアカデミー賞を受賞できたのか。これはいろんな外国人の方と一緒に映画を見ていないので、細かいリアクションや、どんな風に感じていただいたのかは分かりません。

 いろんな悲しみであるとか怒り、あるいは喜びというどんな世界にも、どんな時代にもある根源的な感情ってありますよね。「それ(根源的な感情)を納棺師として生きる映画に込めて撮った、ということをきっとご理解いただけたのではないかな」と自分としては思います。

 また、(『おくりびと』は)極めて日本的な物語ではありますが、死という現象は世界一般に誰にでも訪れるわけですね。我々は普段は自分の死から目を遠ざけていますし、「自分の葬式の予行演習はしたくない」と思っています。「この映画を通して(納棺される人を)自分に置き換えて、自分の将来の死というものを見つめていただけたのではないかな」と思います。「(自分の死と重ね合わせてもらえたことで)非常に身近な映画になったのではないか」と感じます。

――「海外では評価が高いが、日本では必ずしも受けない」という日本映画があると思います。日本映画がもっと日本人にも受け入れられるようになるためには何が必要だと思いますか?

滝田 「海外で認められて、日本ではあまり認められていない」、それは皆さんどんどん言ってください。しかし、「日本人が(日本映画を)認める、認めない」というよりは、「なぜ(日本人が)映画を見に行かないのか」ということについて僕らは知りたいと思います。

 今、日本では相当な数の映画が作られています。「年間400本前後、毎日1本映画ができているにもかかわらず(参照リンク)、観客は同じように比例して伸びているとは言えない」と思います。

 ですから、「なぜ、お客が来ないんだ」ということをきっちり分析する必要があると思います。それ(悪いの)は作品なのか、作り方なのか、公開の仕方なのか。誰もそのことについてまとまった見解を持っている人がいないと思います。これは映画だけではなく、アーティストの方たちとか、いろんな方が集まって、ぶっちゃけた話をしなければいけません。また、映画の批評についても「ちゃんと個人の名前で責任を持った批評をしていく」「1つの映画をきっちり見つめる」という行為が大事だと思います。

――ビジネスマンや政治家、学者の方からはグローバル化という問題についてさまざまなことが語られていますが、滝田監督は映画人としてグローバル化についてどのように考えていますか?

滝田 政治や経済は語れないのですが、映画については(グローバル化が進んでいると)思います。ハリウッドで働いている(日本人の)若者はたくさんいますし、米国に限らず欧州で勉強している(日本人の)若い人たちもたくさんいると思います。

 (グローバル化していく中で)一番大切なのは、「どこの場所でやる」というよりは、「自分が何をやりたくて、何を思うか」という強い気持ちを持つことだと思います。何でもある場所から始まるわけでありません。映画にしても、美術にしても、音楽にしても、スポーツにしても、「ある場所から始まった自分の気持ちを大切にすれば、どこへでも行けるのではないか」と思います。

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