出版不況を生き抜く、新しいビジネスモデルを考えよう郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2009年05月07日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 出版界には本当に良いニュースがない。2月には『エスクァイア日本版』が休刊の方針を示し、カルチャー系の読者層に激震が走った。20年以上にわたりアートや文化をけん引してきたクオリティマガジンだが、5月発売号がラストになるという。思わず手を合わせてしまった。私はここ数年は数冊しか買っていなかったものの、1990年代を通じて同誌を愛読していたからだ。

 エスクァイアの休刊は、不況によって赤字がかさんだことが原因と推測される。だが親会社のレントラック、さらにその親会社CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の“経営ポートフォリオ”上の判断とも考えられる。世界同時不況が雑誌という媒体の息の根を止めそうだからだ。2008年の電通『日本の広告費』によると、マスコミ4媒体(新聞・テレビ・ラジオ・雑誌)はすべて前年比マイナス、中でも雑誌は11%減と厳しい。

『エスクァイア日本版』休刊のお知らせ

雄鶏社倒産の衝撃

 さらなる衝撃は4月下旬、手芸書で有名な雄鶏社が東京地裁へ自己破産を申請したというニュースだ。若いころに手づくり大好き少女だった婦女子層に困惑の波紋が広がった。1945年創業の雄鶏社の本、日本津々浦々のお宅の書棚に最低1冊は眠っているはずだ。

 私は手編みはしないが、手作りの縫い物が好きな中年男子である。雄鶏社倒産のニュースを耳にして、近所の書店に立ち寄った。せめて1冊でも購入して支援しようと手芸書のコーナーを見回したが、なぜか見当たらない。「もう回収されてしまったのだろうか」と書店を後にしようとすると、店頭で段ボールに入った本の数々を見つけた。倒産の余波だろうか、何と雄鶏社の本が30%オフのセールとなっていた。写真を撮らせてもらい1冊購入。和柄の巾着袋でも縫うとするか。

保護してあげなくちゃいけなかったのに!

 溺愛したエスクァイア、そして敬愛する向田邦子女史も勤めていた雄鶏社の消滅。この2つの出来事に共通する心理とは、「私が保護してあげなくちゃいけなかったのに!」という後悔であり自戒である。私にとって、2つともがそういう存在だった。

 そして、それは私だけの気持ちではなかったようで、「エスクァイア日本版を復刊させよう!」という運動がある。署名が徐々に集まってきており友永文博編集長も感謝のメッセージを寄せている。私ももちろん署名した。

 手作り婦女子も声を上げてはどうか。イマドキの世の中、手作りよりも買う方が安いし、わざわざ作る時間もないかもしれない。「ながら」ではできない手編みは、今のライフスタイルには合わないかもしれない。でも、エコの広まりや不況は、手作り層開拓にプラス要因のはず。手芸用品店のユザワヤオカダヤは歩くだけで楽しい。携帯やゲームや化粧や飲食などはしないで、昔の女子学生のように編み物する光景が広がれば、サツバツとした通勤電車もなごやかになるだろう。

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