映画はこうして作られる――映画プロデューサーの仕事とは(前編)(2/4 ページ)

» 2009年06月12日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

プロデューサーとは

スタジオジブリ公式Webサイト

内田 ディレクター(監督)とプロデューサーは、“作る人”と“売る人”と考えると分かりやすいでしょう。ディレクターが作る人で、プロデューサーはその事業を完成させてお金にする人だと考えた時、背中合わせで仕事をするケースがほとんどです。日本では「監督がすべてのものを決める」という言い方をよくされます。しかし例えばスタジオジブリでは、宮崎駿さんがいいものを作ることに専念する一方、その裏で鈴木敏夫さんというプロデューサーが全体のコーディネイトをして、いろんなパートナーシップを組んで助けているのです。

 ディレクターとプロデューサーのパワーバランスはチームによって違うと思いますが、だんだんプロデューサーの力が強くなってきています。プロデューサーが強くないと、商売ができないのではないかということにもなっています。先ほどお話したように、邦画がこれだけ大きくなっているのは、作り手だけではなくて、それを事業にするインディペンデントのプロデューサーやテレビ局のプロデューサーがノウハウを身に付けたからここまで大きくなった、という一面もあります。

 私自身、経験が10年しかないのですが、「プロデューサーとは?」と聞かれた時には、「作ることと売ること、両方のバランス感覚を持っている人だ」と言っていて、自分自身もそう心がけています。クリエイターと話をして、あるいは原作の本を読んで、あるいはオリジナルのことを考えて、それをどういう風に作品にしていくのかという企画書は自分で書くようにしています。それと同時に、その作品を売り込んでお金にする事業計画書も自分で書くようにしています。プロデューサーは売る仕事、クリエイターは作る仕事と思っている人が多いですが、「両方できてこそプロデューサーだ」と目標としてはありたいなと思います。

 もう1つプロデューサーに大切なことは「リーダーシップがあること」だと思います。例えば、トヨタがプリウスというクルマを作る場合には、コンセプトを作って、それに見合うコストや研究費を考えて、このクルマのニーズは社会的にあるのかというところまで考えて企画書を出さなければなりません。それと同じように映画プロデューサーは全体をコーディネイトしなければならないのですが、それはトヨタの社長や取締役レベルの仕事ではないかと思うからです。

 違う言い方をすると、企業経営者には営業畑からトップになった人も、管理畑や人事畑からトップになった人もいるように、プロデューサーも誰でもなれると思っています。絵を描く人からプロデューサーになった人もいるし、僕も20代は全然違う仕事をしていたのですが、異業種からの転職組でもプロデューサーになれるケースもあります。

プロデューサーの仕事

 プロデューサーの一番大事な仕事は「何を原作とするか」ということです。マンガや小説を原作にして映画化することもありますし、自分でオリジナルを考えて映画化することもあります。

 ただ昨今では、マンガや小説などの原作がある方が事業にしやすくなっています。プロデューサーとは言ってもサラリーマンが多いので、上に企画を通す時に「マンガが何万部売れているんです」というように稟議書に書きやすいのです。日本ではみんなどんどんオリジナルから離れてしまい、原作ものが中心になっています。実はハリウッドも同じ苦労を抱えていて、「ハリウッドは続編しか作れない」と揶揄(やゆ)されることもあります。個人的にはオリジナルものと原作ものが半分半分ずつくらいなのがいいのではないかと思います。

 プロデューサーは一般的にどのくらいの企画を持って動いてるのか? あるプロデューサーは「常に企画は40本を切らないようにしている」と言っていました。40本の企画をいつも動かして、それが絞られて最終的に1本のヒット作になったりするのです。ただ、彼のように企画を多く持つやり方もあれば、1本に注入して成功率を高めていくやり方もあるので、一概には言えません。

 原作が決まると、次のステップは脚本化になります。作品がどういう骨組みになるのかという設計図と言ってもいいと思います。この設計図があると、いろんな会社に売り込んでいって、「これに参加しませんか」「お金出してくれませんか」という話ができる状況になります。売り込む時には、アニメでも映画でもすべて「脚本は何?」とたいていは言われるからです。もちろん原作によっては脚本ができていなくてもお金が集まることもありますが。

CLAMP公式Webサイト

 普通は脚本が完成したら、次はその設計図をもとにどういう風に施工するかという話、つまりスタッフィングの話になります。アニメなら監督やキャラクターデザイナー、映画なら主演、助演、監督などです。スタッフィングはお金が付くかどうかという上で非常に重要です。例えばアニメだと、CLAMPさんがキャラクターデザインを担当するとなれば、CLAMPファンは何十万人もいるので、ある程度の事業の採算性が見えます。映画だと、松山ケンイチさんや木村拓哉さんが主演するとなれば、企画にある程度のバリューが付くので、テレビ局が「参加させてください」と言ったり、どこかの配給会社が「やらせてください」と言ってくれるようになるのです。

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