ベルクの特徴として、壁を有効利用していることが挙げられる。ふつう飲食店内部の壁というと、メニューが張ってあるか、有名人の色紙がこれ見よがしにベタベタ張ってあるかのいずれかであろう。
しかしアーティスト志向の井野さんと、写真家として研鑽(けんさん)を積んでいた迫川さんは違った。月替わりの写真展を開催し、ギャラリーカフェ的な彩りを加えたのである。
出展した写真家には大家も多いようだ。しかし、それ以上に注目すべきは副店長・迫川さんの、この分野での活躍であろう。
彼女は13年間以上にわたって、ほぼ毎日、仕事の合間を縫って、新宿の街を撮り続けているのである。ベルクの写真展を飾ったその作品の数々に対する業界の評価は高く、彼女の写真は、ついに写真集『日計り Shinjuku,day after day 迫川尚子写真集』(新宿書房)となって結実する。
彼女を賞賛する専門家たちの言葉は、多々存在する。一例として写真家の森山大道氏は、「新宿のヴァージニア・ウルフだ!」と言って絶賛したと聞く。
井野さんと、迫川さんのアート志向は、店内に置かれた手作り感あふれるフリーペーパー「ベルク通信」ともども、結果的にビジネスに好影響を与えているのである。
一見、順風満帆に見えるベルクの経営であるが、実は、一昨年から存亡の危機に立たされている。それは、オーナーに当たるJR系列のルミネからの立ち退き要求である。
JRの方針として、「1つの店(テナント)は、平均3〜5年で旬を過ぎる。従って、全テナントを、従来の普通契約から定期契約に切り替える」というのが前提としてあると井野さんは指摘する。
そしてこのことと関連して、毎年、20%のテナントを入れ替えるという方針があるのだという。
こうした基本方針に沿って、2007年2月、ルミネ本社からベルクに対して、個別で呼び出しがかかった。そして、一方的に、自動更新による「普通契約」から、オーナー側が一方的に更新を拒否できる「定期契約」への切り替えを要求されたそうだ。
それについて、井野さんはこう語る。
「巨額の広告費をかけて、多店舗展開している大企業の支店がテナントの場合なら、そもそもが『短期決戦』を志向しているので、そうした契約にされても経営的には大丈夫でしょう。
しかし個人店はそうはいきません。同じ場所で長い年月をかけて、少しずつ少しずつお客様を増やしていくしかないんです。いわば『長期熟成』こそが個人店の生き残る術なんですよ。
だからベルクは、これまで普通契約で通算40年近くやってきているわけですし、それなのに、いきなり、こちらに何の非もないのに、一方的に定期契約への切り替えを要求するなど、理不尽極まりないです。
それにですよ。それがルミネの方針だというのなら、全テナントを集めて説明会を開けばいいはずでしょ? それなのに、各テナントを個別で呼び出して、密室で圧力をかけてくるというのは、いかがなものでしょうか?」
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