香川大学はなぜIruCaを導入したのか――IC利用率78%「IruCa」の今(後編)神尾寿の時事日想・特別編(2/3 ページ)

» 2009年07月15日 07時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 学生証の高度化は大学サービスの拡大・充実に伴うニーズであり、そこで“接触ICではなく非接触ICを採用する”のが昨今のトレンドだ。香川大学でも身分証明書としての学生証の機能だけでなく、大学生協の会員証および電子マネー機能の実装も当初から計画されていた。

 「IruCaとの連携については、交通ICとして高松市内で広がっていたことももちろんですが、それ以上に高松市内の商店街で“地域の電子マネー”として広がっていることを重視しました。それが一体化を進める理由にもなった。

 計画当初は生協電子マネーとIruCa電子マネーの共通化も検討していたのですが、それは運営や運用の問題で難しかった。ですから、香川大学の『学生証』と『生協カード』、そして『IruCa』と『フェリカポケット』の機能が1枚に搭載されたFeliCaカードにしたのです」(角田氏)

 異なる事業体が運営するサービスを1枚のカードにまとめる。これはFeliCaの「マルチアプリケーション機能」が生かされる用途といえるだろう。とりわけ香川大学の学生証は多くの機能を詰め込んでいるため、8KBのメモリーを搭載した大容量型FeliCaカードを採用している。

IruCaを用いて中心市街地活性化と香川大学が連携

 交通ICを内蔵した学生証は他地域でも導入されており、その主なニーズは「交通IC内蔵で通学時の公共交通利用をしやすくする」ところにある。香川大学でもIruCaの交通ICとしての機能には注目したものの、導入の直接的要因になったのは「地域での電子マネー」の広がりにあったと角田氏は話す。

 「あまり知られていませんが、香川大学の学生は高松の若者人口の約3割を占めています。彼らをICカードを用いたサービスで中心市街地に誘導し、地域活性化に結びつけられないか。それを重視して、商店街など中心市街地の活性化で実績のあるIruCa機能の内蔵を考えました。

 また、大学としての『研究』という立場では、学生たちの協力を得て、電子マネーやクーポンなどが商業地域における(消費者の)行動パターンにどう影響を及ぼすかという分析も行いたかった。こうした狙いがあり、IruCaやフェリカポケットの機能を学生証に内蔵したのです」(角田氏)

香川大学

 地域の中心市街地に活気を取り戻す。その観点では、大学生など若者層が往来する商店街や街作りが欠かせない。電子マネーほか様々な施策で地域との連携を強めているIruCaを学生証に取り込んだ香川大学側の狙いは、まさにそこにあるのだ。

 さらに角田氏は、地方の大学ならではの優位性として、「ICT※を用いた街作りの社会実験がしやすい」ことを指摘する。

※ICT…情報・通信に関する技術一般を指す語で、Information and Communication Technologyの略。

 「高松くらいの都市では街の規模が小さく、その中で(香川大学など)1大学の学生が占める若年層の比率が高くなります。ですから、ICカードを用いて消費行動とエリア内の回遊を分析したり、電子クーポンなどを用いた集客・送客がどのような効果をあげるかといった実験と効果測定がしやすいのです。これが例えば、東京など大都市ですと、1大学程度の規模では街ぐるみの社会実験ができません。このように地方の大学には、地域と連携した様々な社会実験に取り組みやすいという『地の利』があるのです」(角田氏)

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