本田宗一郎は「尊敬すべき歴史上の人物」――ホンダ新社長 伊東孝紳氏が所信を表明神尾寿の時事日想・特別編(2/3 ページ)

» 2009年07月21日 18時02分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

ハイブリッドとダウンサイジングに注力

 環境重視は新たな「ホンダらしさ」の屋台骨であり、そこでの具体的なアプローチとして、伊東氏はハイブリッドとダウンサイジングを強く掲げた。その強調ぶりは、ハイブリッドの老舗であるトヨタを上回るほどだ。

 「僕は今後は『エンジン』と『トランスミッション』、『(電気)モーター』と(並列に存在すると)いう時代ではないと思っている。これからの新商品領域では、『モーター』はどこかにあってあたりまえ。エンジンの技術開発、化石燃料側からのエネルギー抽出量の向上は今後も続けますが、それはあくまでモーターと組み合わせた形での技術革新になっていくでしょう。ですから、今後のパワートレイン開発は、モーターをどの程度使うのか、(モーター主体での)商品企画ということになる。

 あと20年くらいはハイブリッドカー領域での(技術の)最適化が進んでいく。ここでどれだけ(他社よりも)先に行けるかということが、商品の競争力でとても重要になる」(伊東氏)

 ハイブリッドシステムを競争の軸足に据える。それはホンダにとって、21世紀の競争戦略を明確に示した発言でもある。

 今後の低燃費技術で鑑みれば、フォルクスワーゲンのTSIを筆頭に、エンジンとトランスミッションの技術革新でも一定の燃費向上効果は得られる。しかし、今後の伸びしろで見れば、電気系のモーターとバッテリー技術の方が技術革新が続く可能性が高い。

 さらにハイブリッドシステムは、全体のシステム構成やソフトウェア制御領域の最適化でさらなる燃費向上が可能であり、ここでの先進性は“先行技術”としてブラックボックス化・付加価値付けがしやすいという一面がある。エンジン技術より環境性能の向上が期待でき、電気自動車よりもコモディティ化しにくいのだ。

 伊東氏は、今後の警戒すべきライバルとして「中国メーカーの成長」を挙げたが、ハイブリッドシステムを競争軸に据えることで、ホンダはこうした中国メーカーとの直接競合を当面は回避できる。ホンダがハイブリッドシステムに注力する背景には、21世紀の自動車メーカー勢力図において、「新興国メーカーの台頭に対して布石を打つ」狙いもあるだろう。

 そして、もう1つ伊東氏が今後の商品戦略で重要としたのが、小型化技術の推進だ。ここ最近のホンダは、フィット、フリード、インサイトと小型車のヒットに恵まれているが、それに満足することなく、ラインアップ全体で小型化への取り組みを強化するという。

 「クルマの小型化ニーズは世界的な流れであり、たとえ景況が回復したとしても、今後も続くと考えています。ですからハイブリッドと小型化は並行でやっていきたい。

 フリードなどは特徴的だったのですが、例えばミニバンなどでも、使い勝手を変えずに小さくしてほしいというニーズがある。(クルマの)小型化技術は重視しています」(伊東氏)

 クルマの小型化は燃費性能の向上・環境面で有利なだけでなく、都市部での使い勝手のよさにもつながる。小型化技術を高めることは、「クルマのサイズを変えずに車内空間を拡大する」ことにもつながるため、きわめて応用性が高い。

 GMなど米国ビッグスリーは、SUVやピックアップトラックなど、大型で利益率の高い商品が売れるからといって、そこに依存した経営に陥ったために市場環境の激変に対応できず破たんした。一方のホンダは、小型化とハイブリッド化に注力することで、環境変化に対する「耐性」を強化しようとしているのだ。

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