本田宗一郎は「尊敬すべき歴史上の人物」――ホンダ新社長 伊東孝紳氏が所信を表明神尾寿の時事日想・特別編(3/3 ページ)

» 2009年07月21日 18時02分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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都市化と消費者の成熟に適応できるか

 20世紀から21世紀初頭にかけて、自動車ビジネスを取りまく環境として、大きく変化した要因がある。それが都市化の進展と消費者マインドの変化だ。

 都市化は日本・欧州など先進国の一部と、中国などBRICs市場で顕著に起きている現象である。これは経済と情報の集約化や、人口や経済圏の縮小均衡を受けてのこと。そして、「若者のクルマ離れ」を極端な例とする消費者マインドの変化は、ネットなど情報メディアの発達による価値観の多様化と、若年層を中心とした消費者の経済感覚の変化を受けて起きた現象である。

 これらはまさしく「クルマが売れない」大きな要因になっており、それにどう対応するかは、自動車メーカーが等しく突きつけられた「課題」になっている。ホンダはそれにどう向き合うのだろうか。

 「まず都市化においては、四輪車だけでなく二輪も、駐車場の確保が難しいなど厳しい状況にある。(都市はクルマにとって)利便性が悪い環境というのは、どうにしかしなければならない。都市部で利便性がないと、お客様に(クルマが)訴求できない。これは自動車メーカーだけでなく、関係各所とも連携をとりながら、どうにかして解決していかなければならないでしょう。

 一方、若年層のクルマ離れですが、僕は『若者がクルマが嫌いになった』とは思っていません。むしろ、将来の生活における不安だとか、都市内部ではクルマが使いにくいといった点が相まって、若い人たちの心がクルマから離れてしまっている。

 その中でも僕は、(若年層の)将来の生活に対する不安というものが、『クルマを買わない』という心理に大きく影響しているのではないかと感じています。ですから、やはり経済の活性化と、明日への夢が持てる社会環境ができないといけないと感じています」(伊東氏)

 都市化の進展、そして若年層のクルマ離れのどちらも、自動車メーカーが一朝一夕に解決できるものではない。なぜならそれは、「魅力的なクルマを出せば解決する」というような、プロダクトでどうにかなるものではないからだ。

 しかし、その一方で、都市部でクルマを利用しやすくする環境整備や、都市部や若年層が利用しやすいサービス型ビジネスの提供など、自動車メーカーが「クルマを売って終わり」というビジネスから視点を変えられれば可能となるアプローチは数多く存在する。伊東新社長が率いる新たなホンダが、そこまで踏み込めるか。先見性と手腕が試されるところだろう。

尊敬する歴史上の人物は「本田宗一郎」

 合同取材会の最後、伊東氏は「尊敬する歴史上の人物は?」と問われて、「本田宗一郎」と答えた。これは1つの、センセーショナルで象徴的なひと言だろう。新しいホンダの社長にとって、本田宗一郎はもはや同時代の人ではないのだ。

 そして、それは21世紀のホンダにとって、とても好ましいことだ。自動車産業を取りまく環境は大きく変わっており、自動車メーカーは約100年つづいたビジネスモデルを変革すべき時期がきている。そんなのっぴきならない状況下で、過去を尊重しながらも一線を引くことができる新たな経営者の存在は、とても重要である。

 かつて本田宗一郎は、ソニーが創業者の名前を冠していないことに感心し、ひるがえってホンダに自らの名前を使ってしまったことを深く悔いたという。それほどまでに創業者の影響力は強い。“環境重視”に軸足をおき、新世代の楽しいクルマ作りをめざすホンダ。同社が新たな企業価値を広め育てていけるか、今後に期待したい。

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