ニューヨーク店は成功……そして世界戦略の成算は? 「博多 一風堂」河原成美物語(後編)あなたの隣のプロフェッショナル(3/4 ページ)

» 2009年09月04日 12時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
「博多 一風堂」ニューヨーク店の店内

 河原さんのこの確信は、ニューヨーク店での成功によって裏打ちされているようだ。同店は「行列のできる店」として知られており、これは海外ではまれな出来事と言っていい。

 「ニューヨークのイーストビレッジに出店しているんですが、驚いたことに客層が日本と同じなんですよ」

 もちろん、日本のラーメンフリークがたくさん渡米したということではない。現地の米国人のお客さんたちが訪れ、しかも、日本でのお客さんと同様の属性を有しているということだ。

 「日本での一風堂のお客さんたちには、『収入が多い』『品が良い』『穏やか』という特徴があります。年代的には20〜30代が中心で、男性65%、女性35%くらいの比率です。ニューヨークのお客さんたちが、まさに、そういう層の人たちなのです」

 ちなみに、このニューヨーク店では、ラーメン一杯13ドルという日本よりも高い価格設定。チップ制の米国では、これはかなり高めの設定といえる。フランスのミシュランと並んで世界的に著名な飲食店ランキング本『ザガット・サーベイ2009』のニューヨーク版にも、同店は取り上げられ、高得点を与えられた。

 経営という視点では、どれくらい成功しているのだろうか?

 「1日当たり500人〜600人が来店してくださっているので、日本での一風堂の繁盛店とほぼ同じレベルですね。年間延べ21万人、年商4億5000万円ほどです」

 まもなく開店するシンガポール店も、中心街オーチャード通りのホテル「メリタス・マンダリン」の飲食店街に立地する。ラーメン一杯は15シンガポールドル(約1000円)で、やはり日本より高い価格設定となる。立地といい価格といいハイエンド志向であることは間違いない。

余人をもっては代え難い存在

 力の源カンパニーの成長目標について河原さんは具体的にこう語る。

 「2018年までに一風堂は150店舗に増やします。五行は30店舗。今秋オープン予定のチャンポンのお店とミドルマーケット向けラーメン店が各30店舗で合計60店舗にします。海外は、12〜13カ国に30〜40店舗を展開します。

 僕は、これらが全部“暖簾分け”でもいいと思っています。また、国内で『共同仕入組合』を設立し、すでに稼働しています。これは、2018年までに年間1500億円ほどの規模にしたい」

 こうした数字の数々を耳にして、正直、筆者は驚いた。承継に向けて成長路線をひた走るかに見える力の源カンパニー。それが実現すれば、確かに国内外に確固たる地位を占めるグローバル企業になるだろう。ただし、それは同社がこれまで経験したことのない、いかなる未知の環境変化に遭遇した場合においても、不変と革新を的確に識別しつつ、不変を貫徹、変革を断行し得てこそ、の話である。

 そのためには、河原さんに加えて、彼の“分身”と呼べる実力者が多数必要となることであろう。しかも、2018年以降その河原さんはもういない。

 たった1回インタビューでお会いしただけであるが、河原さんという人は、実に多様な要素をお持ちの方である。俳優出身で、自分のお店や会社をステージに見立てて、自ら演じ、お客さんたちを喜ばせることに自らの喜びを感じるエンターテイナーとしての側面。博多の小さなラーメン店・店主から出発して、数々の困難を乗り越えて、ついには世界進出を果たすなど、常に高い目標を設定してそれを達成していくチャレンジャーとしての側面。

 それまで誰も思い及ばなかったような食のコンセプトを編み出し、自らのセンスと技術でそれを実現して九州のラーメン界を一新し、やがては日本全体のラーメン業界のあり方まで変えてしまい、とうとうラーメンを日本文化として世界に広め得る存在へと高めたイノベーターとしての側面。

 これだけの多様性をもった人材というのは、そうそういるものではあるまい。しかも、河原さんを形成する本質的な要素は、決してそれだけではないのだ。

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