リーマン・ショックから1年……世界経済に新たな暗雲も藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年09月14日 08時27分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 日本の第2四半期のGDP(国内総生産)成長率は3.7%から2.3%へ下方修正された。設備投資と在庫投資のマイナスが一次速報よりも下方修正されたことが響いた形である。もっとも在庫投資のマイナスは、景気の悪化を受けて企業の在庫調整が進んでいることの表れでもあり、むしろ第3四半期に期待を持たせるものかもしれないが、設備投資が相変わらず弱いこと、そして個人消費が政府の景気刺激策によってプラスになっているとはいえ、息切れしてしまう懸念も消えない。

 息切れどころか、世界の景気が最悪期を脱したという評価が日増しに強まるのに比べると、まだ日本の需給ギャップは大きく(一説には40兆円、GDPの8%にもあたるという)、二番底をつける可能性もあるとの見方がいまだに根強くある。しかも消費者物価の値下がりが続いている。つまりデフレが続いているということで、2009年の年末には前年比で4%前後の物価下落が予想されるという(7月時点で前年同月比マイナス2.2%)。

中国で新たなバブルが形成?

 デフレが深刻化すれば景気の足は引っ張られる。将来物価が下がると思えば、消費者は買い控えに走る。GDPの6割以上を占める消費が伸び悩めば、それに伴って企業の在庫調整も長引き、企業は国内での設備投資を抑えて海外での設備増強という傾向を強めることになるだろう。エコカー減税やエコポイントで押し上げられている消費も、そうした助成がなくなれば息切れする可能性がより高まることになる。

 今のところ日本は最悪期からは脱したという見方が主流だが、強力な需要の回復は期待できないだけに、簡単に楽観論に乗るわけにもいかない。そうした日本を尻目に景気回復の道を順調に歩んでいるように見えるのが中国だ。例えば8月のGDPは前年同月比12.3%増(7月は10.8%増)、これはここ1年間で最も高い伸び率である。

 英紙フィナンシャルタイムズ電子版の「中国経済の回復が加速しはじめた」(2009年9月11日)によれば、8月のGDPおよび設備投資はエコノミストの予想を上回ったという。ただ貿易は輸入輸出とも予想よりもまだ落ち込みが大きい。

 こうした状況を受けて、中国政府の内部では財政による景気刺激策をいつ止めるべきかという議論が盛んになるとフィナンシャルタイムズは予測している。しかし温首相は「世界経済フォーラムでスピーチを行い、中国の景気回復はいまだに安定しておらず、バランスも悪く、しっかりしていない。条件が整っていないため、政策の方向性を変えることはできないし、変えるつもりもない」と語ったという。

 政府による刺激策だけではない。いま中国の景気を支えているのは、金融機関による貸し出しの増加だ。こうした融資の増加によって、株式市場や不動産価格がすでに上昇している。つまり中国で新たなバブルが形成されつつあるという見方もできるのである。

 モルガン・スタンレー・アジアのスティーブ・ローチ会長は、「現在の状況は持続可能ではない。今年は第3四半期も第4四半期もプラス成長になるだろうが、本当の試練に直面するのは、米国の消費者を中心とする外部需要が回復してこない来年だ」という。

 その米国との貿易関係では、9月13日の同紙電子版にこんな記事が載っていた。中国製のタイヤに対して米国が4%の関税にさらに35%の課徴金を課し、それに対抗して中国が報復関税を米国から輸入される農産物などに課すという動きがあるというのである。

 中国側は、米中が協力しなければいけないこの時期に、こうした米国の姿勢は世界に対して間違ったメッセージを送ることになる、と反発。そしてこうした米国の行動が保護貿易の連鎖反応を引き起こし、世界経済が回復するペースを遅らせることになるとも言う。

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