鳩山政権の“アキレス腱”はどうなる藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年09月28日 09時42分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 国連の気候変動サミット、国連総会、 G20(金融サミット)と外交日程をこなした鳩山首相。温暖化ガスを2020年までに1990年比25%削減という「大胆な目標を」(米国のゴア元副大統領)打ち出して注目を浴びた。日本の首相が外交の舞台で得点する場面にあまりお目にかかったことがない。小泉元首相が北朝鮮を初訪問したのも華々しい外交の成果ではあると思うが、世界を舞台というわけではなかった。

 しかし鳩山内閣の弱い環が早くも露呈し始めている。郵政改革・金融担当大臣の亀井静香氏だ。中小企業の借り入れについて、「現代版徳政令」をやって3年間ほど金利支払い、元金返済を猶予したらいいという持論を展開している。理由は「黒字でも資金繰りがつかなくて倒産というケースが多い」からだそうだ。

 いくら「市場原理主義」が嫌いだと言っても、市場の論理をまったく無視して経済が成り立たないことぐらい分かっていそうなものだが、亀井大臣はそういったことはお構いなし。それが「善政」だと言わんばかりだ。

構造改革を遅らせる政策は下策

 もし返済猶予法案が国会に提出されるようなことがあれば、金融機関はいっせいに中小企業や個人への融資の縮小に走る。それは当たり前の話である。3年間も資金を寝かせてしまえば銀行の収益に大きな影響が出るだろう。中小企業といってもその内容は千差万別。黒字倒産の危機にあるような企業もあるだろうが、倒産することが避けられない企業もある。このような企業の借り入れ返済を猶予しても結局は数年延命するだけのことだし、その延命のおかげで本来生まれてくるはずの新しい企業の誕生が阻害されることにもなりかねない。いくら現在の危機の発端が米国の金融危機だとはいえ、だからといって日本経済の構造改革を遅らせるような政策は下策である。

 1990年に日本経済のバブルが弾けて以来、日本がなぜ「失われた10年」に落ち込んだのか。その原因の1つは、本来、倒産して退場すべき企業を延々と生き残らせたからだとも言われてきた。いわゆる“ゾンビ企業”である。このとき、時代に取り残されたような大企業を生き残らせてきたのは、大銀行である。その理由は明白だった。大企業をつぶせばその貸し倒れで大銀行に大きな損失が出るからである。だから融資した企業は、金利さえ支払っていれば銀行の支援を受けられ、その結果、銀行には目に見えない形で不良債権が積み上がっていった。不良債権処理を強引な形で迫られるまで日本経済に「自律回復力」は生まれなかった。

 それなのに亀井大臣は「中小企業支援」という美名に隠れて、ゾンビ企業を作り、金融機関に不良債権を積み上げようとしているかに見える。よもやこの政策が実現することはありえないと思うが、もし担当大臣の意見が通らないのなら、鳩山首相も亀井大臣を金融担当相として起用し続けることはできまい。大臣がいくら吠えても何も怖くないということになったら大臣の職責を全うすることはできない。

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