良いデザインとは何か?――深澤直人のデザイン論郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2009年11月05日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター作品販売「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『ナレッジ・ダイナミクス』(工業調査会)、『21世紀の医療経営』(薬事日報社)、『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。2009年5月より印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン


 DESIGNTIDE TOKYO 2009、それは10月31日から11月3日まで、東京ミッドタウンを中心に開かれたデザインイベントだ。デザイナーの作品展示やアワード展示がいっぱい。だが、1つ1つの作品はすごいし、「いいな」と思うものの、あまり熱くなれなかった。デザインがいっぱいすぎて、「ウルサイよ」とつぶやく自分がいた。実は去年、神宮外苑で行われた同展でも同じ感想をもった。

 なぜなのだろう? その答えを、21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「THE OUTLINE 見えていない輪郭展」で見つけた。10月31日のオープニングトーク「2人に見えている輪郭」を聴講し、「うるさい」と思うワケが分かった。デザインや商業写真のすごみに鳥肌が立ったトークショー、プロダクトデザイナー・深澤直人さんと写真家・藤井保さんの話をぎゅっとお伝えする。

THE OUTLINE 見えていない輪郭展(出典:21_21 DESIGN SIGHT)

デザインとは輪郭を共有し、割り出し、埋める

深澤 「デザインする時、ボクは頭の中に描いている輪郭を思い浮かべる。実はクライアントを含めて、すでにみんながその輪郭を共有している。デザインとはそれを鮮明にさせ、導き出し、割り出す仕事。ジグソーパズルの最後のピースを埋めるようなもの。つまりモノは単独では存在しない。モノの周りにある存在空気、生活感があって、存在している。決して加工された世界ではなくてそのまま。あ、今日のトークショーの全部を語っちゃった(笑)」

 寡黙そうな藤井さんをリードするように、一気に語り出した深澤さん。いきなり全部を語ってしまった。でも深澤直人さんの“客観写生ワールド”になじみがない人には、意味不明かもしれない。そこを解きほぐしていこう。

 この展示会とトークショーは、深澤さんと藤井さんが『モダンリビング』誌に4年にわたり連載した「見えていないデザイン」がベース。隔月の連載で深澤さんのプロダクトを藤井さんが撮る。すると、見えていないはずの輪郭がまるで魔法のように浮かび上がる。

プロダクトの輪郭が情景に溶け込む

藤井 「(一般的には)写真とは情報を消して、(ある部分を)誇張するものと思われている。それは違う。その場の空気と一緒に撮るのが写真なんだ」

 約14年前、藤井さんは“自然光写真スタジオ”をつくった。それは日の当たるバルコニーに撮影台をつくり、トップから自然光を採光する。撮影は室内からだ。同展ではその仕掛けを、MAGISのスタッキングチェアの撮影風景で再現。

 「照明のライティング環境なら安定して撮れるが、それは作業」と語る藤井さん。照明という人工的な影を排除して、自然光の中で撮ると、想定外の何かが起きる。深澤作品のオレンジ色のスタッキングチェアを撮った写真パネル。チェアのオレンジの輪郭が白い風景に“にじんでいた”。デザインと風景が一体だった。こんな写真は見たことがない。言葉が出なかった。

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