W杯パブリックビューイングの仕掛け人――イベントコンサルタント・岡星竜美さんあなたの隣のプロフェッショナル(3/4 ページ)

» 2009年12月11日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

地方再生への新しい取り組み方とは?

 「マ・イ・ウ・エ・コ+レ」を活用して、地域や地方都市を元気にしているという岡星さんであるが、サッカーW杯とは異なる領域でどのように活用しているのか。いささか気になるところである。

 公式Webサイトのプロフィールには「5つの設計力(発想設計・企画設計・集客設計・モデル設計・ファン設計)を通し、花(話題)も実(実益)もある“地産地催”イベントの啓蒙などを行う」と書いてある。そこで、その内容について、具体例を挙げての説明をお願いした。

 「ある自治体での話です。依頼を受けて私が訪問すると、『うちには何もないから、何か考えてよ!』といきなり言われたのです。でも、実はこれってこの町だけのことではなくて、大体どこに行っても言われることなんです。

 そういうケースでは“ならのしか”と呼ぶのですが、『〜しかない』ということは、言い換えれば『〜ならある』ということだよ、ということを気付かせてあげるのです」

 コップに半分入っている水を見て「半分しか入っていない」と思うか、「半分も入っている」と思うかという「コップの理論」にも似ている“ならのしか”であるが、「新しい視点への転換」をうながすということであろう。

 「最近、『この町はひどく辺鄙(へんぴ)なところにあるので、携帯の電波も入んないんだよね〜』と言われたことがあるのですが、それは例えばこんな風にも考えられませんか?

 今時、携帯の電波が入らないエリアなんてほとんどない。休暇で旅に出ても、仕事絡みの電話がかかってきて、少しもくつろげないのが現実だ。そんな現代にあって、携帯の電波も入らないなんて、なんというぜいたくだろうか。『この結界を越えたらノンデジタルになるんです』という旅の提案ができるのではないか。現代の疲れ切ったビジネスマンたちに、うってつけの企画が打ち出せるのではないでしょうか、と」。

 岡星さんのこうした「視点転換」のアドバイスを受けて、それまで沈んでいた地方の人々の表情が明るくなっていくのが見えるような話である。希望の光が差し込めば、自分たちからさまざまな意見・提案が出せるようになるかもしれない。。いったんそうなれば、しめたものである。あとは岡星さんのサポートも得つつ、地産地催のイベント企画は進んでいく。

第23回国民文化祭・いばらき2008にも関わった

見果てぬ夢を追いかけて

 「私の座右の銘は『絶望は毒薬、希望は特効薬』です。人生において、すべて削ぎ落とした後、最後に残らないといけないもの、それは希望ではないかと思うんです。家や食べ物はなくても、希望さえあれば人は生きていけると私は思っています。

 最初に申し上げたように、私の生まれ育った故郷は曜日の感覚がなくなるほど刺激のない土地でした。自分ではいろいろと夢があっても何もできない。そこに生まれるのは、ちょっと大げさですが“絶望感”です。「希望さえ持てれば……」、そういう思いで過ごしている、かつての自分の分身のような人々がきっと今も日本各地にいると思うんです。だから私は何とかして、その絶望感を希望へと変えてあげたいと思っています。それが現在の私の仕事の原動力になっています」

 岡星さんの心の奥底に巣くっている幼年期の絶望感は、もう晴れたのだろうか? その問いに対して、岡星さんはこう答える。

 「自分の思いが日本全国に浸透してスタンダードになった時、私の心は晴れるのかもしれません。でも、私はその日は来ないと思っているんです。私の思いがどんなに広がっていったとしてもです。

 どんなに追いかけても、一番星には手が届かない。見果てぬ夢のようなものと言ったら良いでしょうか。そこに私はロマンを感じたりするんです(笑)」

 そして、こんな風に言葉を継いだ。

 「私が大事にしている4字熟語は“満天最光”です。私は昔から星が大好きなのですが、全天で一番輝いている星はシリウスなんです。そこで、満天の夜空で一番輝きたいという思いを込め、独立に当たって会社名をシリウスにしました。私の名字も岡星ですしね(笑)。イベントで希望の星をあげる、それも満天最光の星を……という気持ちなのです。満点最高みたいな良い語感ですし」

 イベントを通じて、地方の「絶望」を「希望」へと変えていくこと。そのことこそが岡星さんにとっての確固たるミッションであることが痛感される話である。

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