爽健美茶ヒットの裏側――コカ・コーラのブランドマーケティング(1/2 ページ)

» 2009年12月15日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 私は1980年代後半、市場調査会社で、様々な消費財の小売店での販売動向を調べる仕事をしていました。調査対象には清涼飲料市場も含まれていましたが、当時は炭酸の入っていない飲料、すなわち“非炭酸飲料”が急激に拡大し始めていた時期でした。

 缶コーヒーもその1つですが、低カロリーで健康的な茶系飲料の人気も高まっていました。とりわけ、現在もトップブランドを維持するサントリーを始め、伊藤園などの飲料メーカーが注力したウーロン茶が爆発的に伸びていたのです。この勢いは1990年代以降、現在に至るまで続いていますね。

 →コカ・コーラのブランドマーケティング

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当時は「ウーロン茶と言えばサントリー」

 さて、ウーロン茶市場において、当時の日本コカ・コーラは大きく出遅れていました。強力な自販機販売力のおかげで、同社の「茶流彩彩・烏龍茶」もそれなりに売れていました。しかし、ブランド力では、サントリーと大きな差がついていたのです(今でも同じですが)。

 フルラインメーカーとしては、ウーロン茶でも強力なブランドを確立したいところ。しかし、すでに当時「ウーロン茶と言えばサントリー」と言われるほどのブランド力を保持していたサントリーとガチンコ勝負をするのは得策ではないと、1994年に日本コカ・コーラに入社した魚谷雅彦氏は考えたのです。

 そんな時、魚谷氏は福岡で試験的に販売していたブレンド系のお茶が、いい動きをしているという情報を入手します。何の宣伝もしないで、ただ自販機に入れていただけなのに、茶流彩彩・烏龍茶と同じ水準で売れていたこのお茶こそ「爽健美茶」だったのです。

出典:日本コカ・コーラ

 商品名に「美」を入れたのは、登録商標の問題による偶然の産物だったそうですが、当時としては斬新なネーミングでした。また、パッケージもお茶らしくないデザインがほどこされていたのです。

 しかし、そもそもなぜ売れているのか、東京本社では詳しい購買動向が分かりません。そこで魚谷氏は、若手社員2人に3日間の福岡出張を命じ、次のような現地調査を命じます。

 「自動販売機の横に立ち、爽健美茶を買ったお客さまに、『なぜ買うのか』『どのくらいの頻度で買っているのか』という2つの質問をしなさい」

 彼ら2人は、出張先の福岡で自販機の横に立つだけではなく、グループインタビューも実施して帰ってきました。

 調査結果によると、「購買者のほとんどが女性」「1日3回飲む女性、これしか飲まないと宣言した女性もいた」「購入理由は『キレイになれそうだから』」といったことが判明。ネーミングとパッケージだけで、若い女性の心に刺さる力を持っている、大きな可能性を秘めた新商品であることが確信できたのです。

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