なぜマスコミはエコカーばかりを取り上げるのか相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年12月17日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 このところ大手紙、テレビ、あるいはクルマ関係のWebサイトに登場するキーワードは、「ハイブリッド車(HV)」と「電気自動車(EV)」だ。「エコの重要性が叫ばれる昨今、日本の最先端技術が世界の自動車産業をリードしている」的なトーンで書かれている記事を目にした人も多いはずだ。筆者はHV、EVの仕組みを熟知しているわけではなく、これらの技術をくさすつもりも全くない。が、最近の過熱気味の報道にはいささか警戒感を抱いている。その理由は、伝える側のマスコミの事情によるものなのだ。

10年前の"外資ブーム"

 今から約10年前、筆者は古巣の通信社で東証・兜記者クラブに詰めていた。担当は株式市況、そして業界担当として外資系金融機関全般を任されていた。

 日本版ビッグバンの掛け声のもと、1400兆円にのぼる日本の個人金融資産を獲得しようと、多くの外資系金融機関が積極的に日本に進出している時期だった。そんなころ、当時の上司の1人からこんな指示を受けたことを鮮明に記憶している。

 「投資信託が銀行窓口で販売されるので、投信の作り手である運用会社を積極的に取り上げろ」――。

 投資信託は元本割れリスクのある商品のため、かつては証券会社や系列の運用会社などでの販売に限定されていた。が、金融市場の規制緩和策の一環としてこれが銀行でも販売可能になったのだ。「貯蓄から投資へ」のスローガンをご記憶している人も少なくないはず。こうした環境下、筆者は外資系の運用会社の紹介や、得意な運用手法、あるいは新規設定予定のファンドの紹介記事を書き続けた。しかし正確に記述すると、“書かされ続けた”……というのが実態なのだ。

 「貯蓄から投資へ」の錦の御旗のもと、古巣だけでなく、同業他社が一斉に同じような投資信託特集を経済面で展開し、ときには、記事と体裁を似せたスポンサー付きの「企画広告」を掲載。投資信託がいかに魅力的な金融商品かとあおったのが実態だ。

 また、商品の作り手である外資、それを売る側の日系金融機関が販売に関する提携を数多く結んだ時期でもあった。このころ、単なる販売契約だけの提携話を、複数のメディアが一斉に「大規模提携」などとあおり、筆者はいやいや後追い取材をさせられた。メディアが大々的に扱うことで、リスク商品に対する警戒感は薄まり、投信の販売実績は徐々に増えていったのだ。

 その後、ITバブルが崩壊し、はたまた世界金融恐慌が起こったりで、日本のみならず世界主要国の株式を運用対象にしていた投資信託の多くが膨大な含み損を抱えたのだ。

 間違いなく、筆者は戦犯の1人である。同業他社の記者たちも同罪だ。が、言い訳させてもらうならば、サラリーマン記者は上司の命令に背けない。命令を出した上司達にしても、営業や広告畑の幹部から命じられ、末端の現場記者を動かしたのだ。マスコミの大半は営利企業である。当時は日本の金融不安の直後で、銀行など国内金融機関からの広告出稿が激減していたため、金融ビッグバンの副産物として解禁された「投信の銀行窓販解禁」は干天の慈雨(かんてんのじう:困難に陥っている時に救いが来ること)だったわけだ。

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