そして2010年、日本に明るい材料はあるのか藤田正美の時事日想

» 2009年12月21日 06時18分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 地方で講演していて、最も聞かれることは「二番底はあるのか? 来年の景気はどうなるのか?」ということである。世界全体でみれば、どうやら最悪期は脱したというのが大方の見方と言ってよさそうだ。ドバイのバブル崩壊もアブダビが救済に乗り出して、どうやらことなきを得たように見える(もちろん商業用不動産にまつわる不安は、米国や英国といった国でまだ残っている)。

 しかし日本はそうはいかない。先日もある金融の専門家がこう言った。「長期金利急騰でトリプル安になる」。トリプル安とは株安、債券安、円安である。

 金利が急騰するというリスクはますます大きくなりつつあるように見える。原因は、国債の発行額だ。現在の民主党政権は、来年度の国債発行額を44兆円前後に抑えるとしているが、実際のところ税収がさんたんたる有様であることを考えると、いくら埋蔵金を掘り出したとしても44兆円で本当にまかなえるかどうか心許ない。

 国債発行額が税収を上回るという「非常事態」であるのに、民主党政権の危機意識がいまひとつ感じられないというのが市場の感触だと思う。現在の経済状況がいまだに危険地帯から脱したとは言えないことは共通認識であるから、政府の借金が増えることは理解される。大事なことはその先のところまで政府がビジョンを示せるかどうかだ。しかし鳩山首相の言葉を聞いていても、どうもそのあたりがはっきりしない。これでは市場に愛想をつかされても仕方があるまい。

 そして日本の最大の問題点は現在でも35兆円を超える需給ギャップがあると見られることだ。そのためにデフレの解消もメドがたたない。GDP(国内総生産)の7%にあたる需給ギャップをどうやって埋めるのか、それこそこれからの成長戦略の要である。この成長戦略に大きな影を落としているのが、少子化そして人口減少だ。いまだに「人口減少は問題ではない」などとのんきなことを言っている政治家もいるが、人口が減るということは消費が減るということであるという単純な事実を忘れているとしか思えない。人口が増えていれば黙っていても消費は増える。減るときには黙っていれば消費も減るのである。従って、人口減少下で経済を成長させるのは容易ではない。

インフレの影におびえる

 もちろん世界経済が成長軌道に乗れば、日本もその恩恵にあずかるということはある。しかし今のところその世界経済の足取りもまだ確実とは言い難い。結局、回復しつつあるとはいえ、まだ政府支出に頼っているという国がほとんどだ。それにいくつかの国では、資産価格が値下がりしている(日本もバブルがはじけて以来、資産価格の低下はかなり長期にわたって続いた)。

 さらに先進国の大きな問題は失業率だ。米国などは10%にも達しているし、若年失業者はどこの国でも増えている。もし失業率の改善がなかなか見られないようであれば、それこそ「貿易戦争」が勃発するかもしれない。どこの国の政治家も自国の失業者の増加については寛容ではいられないからだ。

 先進国が金融緩和を続け、財政支出を減らさないということになれば、新興国もそう簡単に金融を引き締めることができなくなる。たとえ資産バブルを警戒しているとは言っても(例えば中国)金融を引き締めれば、国外から資金が流入するからである。インフレの影におびえるインドについても同じことが言えるかもしれない。

2010年、明るい材料がない日本

 そういったことを考えると、この金融危機は我々が恐れたほどひどくはならなかったと言えるかもしれないが、先行きもそう楽観的ではないのかもしれない。そういえば米国のあるアナリストは「回復するように見えても、2010年には再び悪化して世界的に株安になる」と予言していた。

 それが当たるかどうかは分からないが、少なくとも来年の日本にとって明るい材料がほとんどないことは私でも分かる。

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