「文系・大卒・30歳以上」がクビに――ベストセラーの著者に聞く2010年労働事情吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年01月08日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

無為無策のあおりを受ける20〜30代

 深田氏は、2008年秋以降の世界同時不況は、日本企業の2つの隠れみのを吹き飛ばしてしまったと見ている。隠れ蓑の1つは、欧米の景気がよかったこと。2つめは、非正社員を雇うことで人件費を抑え込んだこと。これらにより、国際競争力を持ち合わせていなくとも、経営はなんとか成り立っていたというのだ。

 このあたりは、私も同感である。これは私のとらえ方だが、日本企業の多くはすでにビジネスモデルが破たんしている。つまり、安定的に売り上げを稼ぎ出し、それをすべての社員で分配していくことができない。その兆しは山一証券や北海道拓殖銀行が経営破たんした、1990年代後半に見えていた。あのときが、実は日本企業の大きな分岐点だった。経営者や経済界は、戦後のビジネスモデルを大きく変えるようにかじを切るべきだったのだ。政府与党もそれを強力に後押ししたり、政策を打ち出し、誘導することが必要だった。

 しかし、それらをすることなく、安易なリストラなどで問題を先送りした。それがいま、大きなツケとなって現れている。問題は、このようなビジネスモデルだけではない。正社員の極端とも言える法的な保護など、労働法も時代の変化についていっていないのだ。

 例えば、解雇要件を緩めるならば、会社員が会社と争うことができる態勢を整えることも必要である。会社がリストラする際の武器となっている配置転換のあり方にもメスを入れて(関連記事)、労使双方にとって公平なものにしないといけない。さらに、解雇された社員には子どもがいるかもしれない。そのことを踏まえ、小中学校から大学までの学費などについて何らかの支援も矢継ぎ早にするべきだった。これらが整ってこそ、正社員の解雇要件を緩めることができる。

 ところが、相変わらず、ビジネスモデルや労働法などは、1990年代後半までのものなのだ。本来、政府や企業はこのようなところにこそ、踏み込んでいくべきだった。そうすれば、非正社員と正社員の格差はもう少し健全な姿になっていた。企業の活力もある程度は、維持できたに違いない。それが、国や地方自治体の財政にもよい影響を与えたはずだ。少なくとも、こんなに早く沈滞期に入らなかったのではないか、と私は思う。

 この無為無策のあおりをもろに受けているのが、いまの20〜30代である。そして、就職活動を控える大学生であり、その親たちだ。

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